押切蓮介『ツバキ〈2〉』

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 押切蓮介『ツバキ〈2〉』講談社 2011 シリウスKC

 こうして感想文を書いてると、今まで知らなかった自分の嗜好に気付かされることがある。一例をあげると表紙について。普段はほとんど意識してないのに、さーて感想書くかってときには、まず表紙ってなる。ちょっと書いてからじゃないと先に進めないから、とりあえず表紙について何行か書いておいて、後から消してたりしてる。よっぽど表紙が気になるらしい。表紙を頼りにコミック本を買うことが多いから、変に思い入れが強くなってしまってるのかもしれない。
 この『ツバキ』もまた、平積みになってた第1巻の、紫の表紙に魅かれて買った本だった。第2巻は黄色い秋っぽい雰囲気のイラストで、これまた綺麗な表紙だと思う。椿鬼(ツバキ)のでっかい目の透明感と、白い肌の質感、そして著者独特の微妙な口元の表情が印象的。

 本書には「朧月夜」前中後編、「マヨイガ」前後編の、全5話が収録されている。「朧月夜」と「マヨイガ」はそのまま繫がっているから、「朧月夜」を「起・承」、「マヨイガ」を「転・結」って感じで捉えることもできると思う。

津山事件」(詳しくはwiki等参照)を下敷きにした「朧月夜」では、性的に乱れまくった山村の姉弟に椿鬼が絡む。村中の男に姉(可愛い)を慰みものにされ、その鬱憤を晴らすかのように、村の女たちと関係を持つ弟。夜ごと聞こえる姉の情事の音に、弟の心は蝕まれていく。
 この作品では津山事件の背景にあった、戦争や結核や因習といったややこしい(底知れない)要素を取捨選択して、ピュアで分かりやすい犯行動機を再構成している。ntrの末の暴走である。暴走のスタイルはもちろん懐中電灯を頭の両側に立てたおなじみのスタイル。内臓がデロッと出たりとかの直接的な描写こそ見られないが、犯行の凄惨さを伝える著者の筆は相変わらず冴えている。今回の椿鬼は姉弟に対してまるで無力な指導霊のようで、あまりいいところがない。あれこれと助言をするのだが、それらがすべて裏目に出てしまう。彼女には誰も救えない。鬼ではなく人として暴走した弟に、椿鬼の弾丸は届かない。そして「マヨイガ」へ。

 ストレートで生々しい「朧月夜」と比べて、「マヨイガ」は登場人物の内面を反映して、幻想的に混乱している。超自然的な力によって、山奥の屋敷に閉じこめられた椿鬼と数人の登場人物は、それぞれ自らの過去の悔恨と向き合うことになる。帝国の逆襲の洞窟のシーンみたいな感じだ。
 屋敷は彼らを強制的に癒そうとするが、それは即ち死を意味している。現世と黄泉の真綿のように優しい狭間から脱出するためには、世界がいかに過酷であっても、そこで限界まで生きることを選択しなくてはならない。拝一刀の「死をもって生きる」に通じる境地である。後悔が過去からの呪縛であるように、椿鬼にとっての「おっ父の言いつけ」もまた、彼女を束縛する過去からの声であった。それを振り切り「自らの心のままに生きる」ことに目覚めて、椿鬼は現世に帰還する。

 人とお山と椿鬼の関係を示した前巻に対して、椿鬼の内面に踏み込んだ第2巻。一段ステージを上がった椿鬼の、今後の活躍が楽しみだ。


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Posted byserpent sea

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