松村進吉『「超」怖い話 Τ(タウ)』

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 松村進吉『「超」怖い話 Τ(タウ)』竹書房 2011 竹書房文庫

 全31話を収録した実話怪談集。ほかにも数冊著者の作品を読んだけど、どれも粒揃いでおもしろかった。後腐れなさすぎて少々もの足りない気がしないでもないが、著者と語られる出来事との距離感が絶妙で、突っ込みすぎない分読後感がいい。今回特に印象に残ったのは次の7編。

「ある要因」原因不明の体調不良で仕事に支障が出はじめた体験者。睡眠中の彼の身に起こった出来事を友人が目撃する。体験者本人はほぼ無自覚のまま、第三者によって状況が語られる構成。どうしても引き気味の絵になるため迫力は削がれるが、客観的な分リアリティは増している。

「不詳の断片」一週間毎に人が死んでいく。どれも事故死である。死者同士に関係があることがぼんやりと分かりはじめる。単なる偶然かもしれない、しかしそう割り切ってしまうには違和感がありすぎる。鈴木光司の『リング』や綾辻行人の『Another』のような強烈な背景を想起させるが、そこは実話怪談、無理に因果関係を創出しない。不気味な印象が残る。

「手を貸す」自宅に入り込もうとする怪異にまつわる話。まずそれに気付いたのは飼い猫、続いて体験者とその息子が夢を通じて怪異を察知する。具体的に生じる現象は軽微だけれど、夢と猫のリアクションがそれを補完して怪談として成立させている。話者の穏やかな人柄ゆえか、「とても佳い話」(p.71)になっていると思う。賢い猫いい。羨ましい。

「魚泥棒」川の中で奇妙な挙動をする男の姿を子供たちが目撃する。実話怪談というより「おばけの話」という方がしっくりくる感じで、短い話だけど印象に残った。

「おいてけ」自動車でナンパした二人の女がリアシートから消える。あまりに生々しい女たちの様子に、体験者は未だに二人が生身だったのではないかと思い詰めている。「消えるヒッチハイカー」系の話で、二人の女の言動や「スポーツカーを追いかける女」の要素によって、より現代的なものになっている。

「花と数珠」女子高生の恋愛にまつわる怪談。比較的大人しい作品だが、エピソードを通じて「主人公」が成長する実話怪談というのは意外に珍しいと思う。叙情的で読後感は爽やかだった。

「裏の病院」自宅に隣接する古い病院が怖い。奇怪な現象が多発している。それに気付いているのはおそらく体験者だけである。色々考えると親にも話せない。カーテンを引いて恐怖に耐えるしかない。この話の怖ろしさは「見たことがバレれば終わりだ」(p.187)という一点に尽きる。そして何年ものあいだ体験者は耐え、とうとうその慢性的な異常に慣れてしまうのだった。オチの看護婦の様子で、病院の気味の悪い状況が端的に表わされている。

 ほかに「責任問題」「ご注意」「忘れ物」「犯罪者」など、興味深い話が多かった。


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