岩田凖一『志摩の海女』

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 岩田凖一『志摩の海女(限定版) 附 志摩の漁夫の昔がたり』1971

「海女」というと、新東宝や日活の一連の映画、それから少し前に話題になった「かわいすぎる海女さん」のイメージくらいしかなかったんだけど(われながら嘆かわしい)、それでも以前から少し興味があった。水木しげるの妖怪の図鑑には、海女さんにまつわる「共潜(ともかづき)」なんて妖怪が載っていたし、海女さんのような職業の人は、きっと色々な海の不思議を知ってるんだろうな、などと考えたことがあったからだ。三重県の志摩地方には、海女さんが海女小屋でトークしながら、アワビなんかを焼いてくれる体験コースがあるらしいけれど、その手の話も聞けるのだろうか。

 本書はもともと1934年に『志摩の蜑女』として刊行された後、1971年に「志摩の漁夫の昔がたり」「私の採集話」を附載して復刻されている。ということは文中の「近年」という記述も1934以前の出来事ってことになる。もう80年近くも前だ。本書には当時丹念に収集された海女の風俗や習慣、口碑、歌謡、体験談などの貴重な資料が数多く収められている。海の怪異に関する記述も盛り沢山で、もちろん上記の「ともかづき」についてもばっちり載っている。

 海女の怖れた海の怪異の主なものには「ともかづき」「山椒ビラシ」「尻コボシ」がある。
「ともかづき」は自分の他には誰も潜ってないはずの海中に、自分と同じような格好をした海女がいるというドッペルゲンガーっぽい海の怪だ。不思議に思って海面に出てみても、自分の舟以外見当たらない。また潜るとやはりそれはいる。にやりと笑いかけて暗い海中に誘い込もうとしたり、ときにはアワビをくれたりするともいう。ただし差し出されたアワビは、背後に手を回して、後ろ向きのまま受け取らなくてはならない。正面を向いたまま受け取ると、そのまま海底に引き込まれてしまう。
「ともかづき」は最も怖れられた海の怪である。石鏡(いじか)村で「ともかづき」と遭遇した海女は、それ以降生涯潜水をしない。また越賀(こしか)村では誰かが一人「ともかづき」に遭えば、村中の海女が一斉に仕事を休んで、二日でも三日でも日待ち(※)をする。その噂が伝わった村々でも同様の日待ちをして、御座(ござ)村の爪切不動へ参詣したという。現在でもごくまれに「ともかづき」と遭遇する者があるらしい。

「山椒ビラシ」は潜水中の海女をちくりと刺すという海の怪で、「山椒クラゲ」とも呼ばれている。刺されると呼吸困難になったり、気を失ったりすることもあって、これもまた怖れられていた。どうやら何らかのクラゲっぽい生物の仕業らしく、様々な推測がなされているが、本書の刊行時点では正確な正体は分かっていない。
「尻コボシ」は溺死した海女の肛門が開いていると、そこから「尻コボシ」によって生き肝を抜かれたなどと言われたらしい。死体の状況から発想された海の怪だと思う。

 これらの海の怪から身を守るために、海女は魔除けを身につける。各村ごとに多少の差異がみられるが、それは磯手ぬぐいや鉢巻きをはじめ、海女のグッズ全般に記される二種のマークで、それぞれ「セーマン」「ドーマン」、合わせて「セーメー」などと呼ばれている。映画『帝都物語』(1988)のなかで加藤保憲が「ドーマンセーマン(詳しくはwiki等参照)」って呪文を唱えてたけど、まさにあれがそうで、手袋についてた一筆書きの星のマークが「セーマン」である。そんな陰陽道のシンボルが、志摩地方の海女さんの魔除けとして伝わっているのが面白い。

 この海の怪異にまつわるところだけをみても、海女という職業がいかに過酷で、危険と隣合わせであるのかを窺い知ることができる。だからこそ信仰や伝承が根強く残っているのだろう。しかし過酷なぱかりかというと、決してそんなことはないらしくて、海女を廃業して町での生活に馴染んでからも「娘の頃に鮑取りをした楽しさが容易に忘れられず、海底に附着する鮑の様子などをしばしば夢に見た」(p.33)なんて記述もある。

海女の海に於ける作業の楽しみは他からは如何ように眺められようとも、本人達にとっては一日も忘れ得ぬ楽しい仕事なのである(p.33)



 ※「日待ち」は村の近隣の仲間が集まり,夜を徹してこもり明かす行事。通常は特定の日を定めて行われる。

 本書の通販を行っている「海の博物館」のミュージアムショップです。↓この博物館行ってみたい。
 http://www.umihaku.com/museum(new)/museum_books.htm

 海女小屋体験のサイトも一応↓
 http://www.ama-koya.net/
 http://amakoya.com/


 海女の化物屋敷 [DVD]』IMAGICA 2005


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