古賀新一『妖虫』

0 Comments
serpent sea
 古賀新一『妖虫』秋田書店 1975 少年チャンピオン・コミックス

 古賀新一というと『エコエコアザラク』の印象が強いが、かつてはひばり書房などを中心に数多くのホラー漫画を発表していた。どれをとっても胸の悪くなるような怪作揃いだったが、一時期ひばり書房や立風書房のコミックスの古書価格が高騰したこともあって、近所の古本屋でも全然見かけなくなってしまった。気軽に買って読めないのが実に残念だ。幸いこの『妖虫』は『エコエコアザラク』と同じ秋田書店の少年チャンピオン・コミックス。流通量が多かったからか、今でもBOOKOFFの棚に並んでることもある。幸運にもこの本を見かけたなら、ぜひ手にとってみて欲しい。絶対うげぇ~ってなるから。

 物語の端緒は、昆虫マニアの男が肥だめに落ちた際の傷口から綿を吹き出し、繭を作って奇怪な生物に変身するというもの。その姿は一応人の形はとどめてはいるものの、芋虫のようなミイラのような異様な姿をしている。でもって生き血を吸ったり、人間を丸呑みにしたりする。そして最後には体が縮んで、胎児になって終わり……とまぁストーリーは個々のエピソードがなんとか繫がってるって感じで、あまり重要視されていないように思う。反面、作画への気合の入りっぷりはハンパない。とにかく描きたいもの(内臓、昆虫、怪物、死体)を描く! という姿勢がビンビン伝わってくる。

 本作に限らず、著者の作品の画面から受ける印象は黒い。楳図かずおの洗練された黒さと比べると、どろっと澱んだドス黒さである。その黒は常にいやーな体温を発していて、じっとりとした質感と、饐えたような臭気を容易く連想させる。内臓や死体etcの表現にはもってこいの画風だ。
 この作品においても、その特徴は充分に発揮されている。なかでも印象的なのは「亜紀ちゃん」という幼稚園児くらいの女の子が、真っ暗な洞穴のなかで怪物と触れ合う一連のシークエンスだ。ここにきて『フランケンシュタイン』(1931)のオマージュか?? と思いきや、そんなハートウォーミングな展開は微塵もなく、上記のような姿の怪物が幼女に抱きついたり頬ずりしたりと好き放題したあげく、ふくらはぎや首筋から生き血をすする。なにをされても「くすぐったい」と、あどけなく笑う幼女が痛ましい。色々な意味で非常にやばいシーンで、緊張感も凄い。
 続いて怪物は幼女の身を案じて洞穴にやってきた母親を、頭から丸呑みにしてしまう。臓物のような質感の洞穴のなかで、巨大な環形動物か、それこそ全身消化器官のように変形した怪物の口から、にゅっと突き出す母親の白い足……内臓のマトリョーシカ人形だ。ひたすらグロテスクなものを描くことに徹した凄まじい絵面で、この一連のくだりはほんと必見。

 とまぁそんな感じで、次から次へと繰り出される目眩がしそうなシーンの数々に、ストーリーの整合性に対する疑問などは吹き飛んでしまう。カバーの著者の言葉には「わたしはこの作品を、その人体に怪奇と夢とロマンを託して、かいてみました」とある。夢は夢でもとんでもない悪夢だよ……。


関連記事
serpent sea
Posted byserpent sea

Comments 0

There are no comments yet.

Leave a reply