村山司『イルカ 生態、六感、人との関わり』

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 村山司『イルカ 生態、六感、人との関わり』中央公論社 2009 中公新書

 随分前に船の上から、野生のイルカやクジラを見たことがある。とくに興味があるわけではなかったので、ほほぅって感じで眺めてただけなんだけど、クジラはでっかくて黒いゴムの塊みたいな背中を波間に浮き沈みさせていて、どうも生きものぽく見えなかった。イルカは思ったよりも小さくて、グレーというより黒かった。何頭かが船のすぐ近くをビュンビュン泳いでいて、楽しげに見えなくもなかった。当時はなにしてるんだろ、遊んでるのかなって感じだったんだけど、本書よると船の起こす波のなかにいると、泳ぐのがすごく楽なんだそうだ。「イルカの波乗り」っていうらしい。さすが賢い。

 本書には様々な側面からみたイルカに関する知識が網羅されている。イルカについての生物学的な解説がされる「第Ⅰ章 生態、五感、能力 ─ 海に戻った哺乳類 ─」には、カバが先祖とか、胃が四つあるとかおもしろい記述が多かった。もともと陸上に棲んでいたイルカの先祖が海に帰った理由は、諸説あるけど今のところ定かではないらしい。また興味深いところでは、よくないことの前触れじゃないかって噂の、集団座礁についても触れられている。
 著者の専門であるイルカの知性については「第Ⅳ章 ドルフィン・インテリジェンス」にまとめられている。陸上の動物が過酷な水中の環境に適応するために、色々と必要なところが発達した。知能はそのひとつに過ぎないって指摘は、考えてみれば当たり前のことなんだけど、とても新鮮に感じられた。最初から「賢い動物」という設定で、特別視してしまうことが多いから。

「第Ⅱ章 神話のなかのイルカとクジラ」と「第Ⅲ章 日本、人との関わり」では、日本と世界各地の神話や伝説のなかのイルカやクジラから、近代に到るまでの人間との関わりの歴史を俯瞰している。日本と他の地域を分けているのは、古来からの日本のイルカ観が、欧米をはじめその他の地域ものと大きく異なっているからのようだ。
 欧米ではクジラに対するのとは違って、古来から一貫してイルカを神聖でフレンドリーな存在として捉えてきた。日本では長らくイルカは食料のひとつに過ぎなかったが、近代に欧米の価値観が流入したことによって、そのイルカ観に大きな変化がもたらされたという。本書ではこのあたりの経緯がとても分かりやすく解説されている。またイルカやクジラを資源として扱うことについて、常に賛否のどちらに偏ることのないスタンスで書かれているのも良かった。

 それとちょっと驚いてしまったのが「イルカ」が俗称だということ。これ全然知らなかった。マッコウクジラなどのハクジラ類のうち、小さいの(体長4~5メートルくらい)を便宜的に「イルカ」って呼んでるだけなのだそうだ。ほんと知らないことが多いな。


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