大阪圭吉『幽霊妻』

0 Comments
serpent sea
 

 大阪圭吉『幽霊妻』(『とむらい機関車』国書刊行会 1992 探偵クラブ 所収)

 専門学校の校長、平田章次郎が殺害された。46歳だった。彼は厳格で口喧しい学者肌の男で、最近も判然としない理由から、一回りも年下の妻を離縁していた。そして元妻が身の潔白を訴える遺書を残して自殺したと聞いても、葬儀にさえ出ようとしなかったのである。そんな偏屈な平田の様子が目に見えておかしくなったのは、しぶしぶ出かけた元妻の墓参から帰ってからのことだった。何か怖ろしいモノを墓地で見たらしい。
 下男によって発見された平田の遺体は、強い力で首をへし折られていた。何者かに怯えたように両目を見開き、握りしめた右の拳には長い女の髪が絡みついていた。おまけにその髪からは元妻の愛用してた香油の匂いが漂っていたという。果たして平田を殺害したのは何者なのか、いかなる手段を用いたのだろうか。

 オチを読んで愕然としてしまうが、その手前までは完全に正調怪談な雰囲気の作品なので、推理と怪奇、両方のジャンルのアンソロジーに収録されてたりする。おかげで著者の作品の中では、わりと目にする機会の多い作品ではないか思う。
 以前感想を書いた『とむらい機関車』(←前の記事へのリンクです)でも顕著だったように、著者の作風は怪奇ジャンルのファンが喜びそうな濃厚な怪奇色と、それを一掃するような論理的なタネ明かしが特徴となっている。「戦前を代表する本格短編の第一人者」とされる所以だろう。当然本作『幽霊妻』にもその作風はばっちり反映されていて、とりわけ怪奇に大きく振っているところが嬉しい。直接的な怪異を全く描かずに、話者である下男が知り得た事実と平田のリアクションだけで、怪奇っぽい雰囲気を見事に醸成している。

 ところが↑のような怪奇な雰囲気は、ラストで犯人が特定された途端に吹き飛んでしまう。犯人の正体は一瞬何書いてあるのか分からなくなるくらい、突飛で異様である。
 犯人を知った後でよくよく読み直してみれば、確かにヒントらしきものは散りばめられているのだが、とても普通の脳みそでは犯人に辿り着けそうにない。本作を収録した推理系のアンソロジー『ミステリーの愉しみ 第1巻 奇想の森』の解説にも「本作品の犯人はまさしく前代未聞で、モルグ街の殺人犯人同様、研究家には記憶されてしかるべき」とある。
 考えてみれば、もしも実際に被害者のような目に合ったなら、幽霊がドーンと出るより本作の犯人の方が怖いかもしれない。どうもオチが気に入らない的なニュアンスの感想になってしまったが、大いに驚かされたし、楽しく読むことができた。


 ※ 参考 鮎川哲也, 島田荘司編『ミステリーの愉しみ 第1巻 奇想の森』立風書房 1991



『とむらい機関車』
 国書刊行会 1992 探偵クラブ
 著者:大阪圭吉
 解説:鮎川哲也「論理派ミステリーの先駆者」

 収録作品
 「デパートの絞死吏」
 「死の快走船」
 「気狂い機関車」
 「とむらい機関車
 「燈台鬼」
 「闖入者」
 「三狂人」
 「白妖」
 「あやつり裁判」
 「銀座幽霊」
 「動かぬ鯨群」
 「寒の夜晴れ」
 「坑鬼」
 「幽霊妻

 ISBN-13:978-4-3360-3361-1
 ISBN-10:4-3360-3361-7
関連記事
serpent sea
Posted byserpent sea

Comments 0

There are no comments yet.

Leave a reply