つのだじろう『うしろの百太郎〈6〉』その2 完

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 つのだじろう『うしろの百太郎〈6〉』講談社 1983 KCスペシャル 36

 前回の『うしろの百太郎〈6〉』その1(←前の記事へのリンクです)の続き。同巻に収録された『月刊少年マガジン』版の読み切り短編の感想です。

「第一話 仮面の地縛霊」
 一太郎が通う中学の校舎の非常階段に、幽霊が出るとの噂がたった。早速調査をはじめた一太郎の前に噂の霊があっさりと出現。まるで仮面のような男の顔だけが宙に浮かびあがった。直後、やってきた先生が階段から落下して負傷する。除霊を決意して情報を集める一太郎は、以前階段から飛び降りて死亡した女子生徒がいたことを知る。あの仮面のような男の霊との関係は?

 デスマスクにまつわる話。ディティールや構成を変えつつ、何度も作品化された著者の持ちネタの一つである。学校に保管されたデスマスクという設定には少々無理があるように思われるが、もしかすると実話怪談調の元ネタがあったのかもしれない。個人的には学校の怪談の一つになれそうでなれなかった話って印象。一太郎の落下に備えてトランポリンをスタンバイしてた一太郎父が頼もしい。

「第二話 呪いの人形」
 古い日本人形が研究所に持ち込まれた。生きている人形だという。しかもこの人形を購入した家族には次々と不幸が降りかかっているらしい。半信半疑の一太郎だったが、すぐさま母親が負傷し、娘を返してくださいと懇願する老婆の霊が出現、ラップ音が鳴り響く。そして人形がぎこちなく動きながら、「おかあさまっ!」そう言葉を発した。

 典型的な人形怪談だが、人形そのものよりも、人形を取り返しにきた老婆の霊の描写に力が入っている。まさに怨霊といった風貌。百太郎によって全ての事情が詳らかとなるが、どうも百太郎が便利に使われすぎているように思う。解説しよう! って感じで気軽に登場する。墓前に人形が半分埋まったラストの一コマが印象的。

「第三話 驚異の透視予言」
 行方が知れなかった女児の遺体の発見が大きく報じられた。発見したのはオランダのクロワゼットという超能力者である。一連の出来事は超常現象業界にとっては僥倖のように思われたが、一太郎の友人で超能力少年の田岡君は吠えていた。ここにいたっても透視をインチキ扱いする報道の姿勢に我慢がならないというのだ。「ぼくはやるぜっ!」そう叫ぶ彼を、計らずもけしかけてしまった一太郎親子に不安がよぎる。そして事件は時を置かずに発生した。超能力に否定的だった科学者やマスコミ関係者が相次いで死亡したのである。その死の一時間前には、子供の声で死を予言する電話がかかってきたという。

 百太郎らしいエピソード。著者の怨念が凝集したかのような好短編だった。負の感情が画面から迸っている。ストーリーは『週刊少年マガジン』版の「第五章 念力少女ワッコ」(←前の記事へのリンクです)と類似した展開を見せるが、暴走した田岡君の行く末が描かれない。また一太郎父が恨みつらみを交えつつどんどん解説していくものだからセリフが著しく多い。もともとセリフの多い作品ではあるが、ギッシリである。コナンよりも古賀亮一のマンガよりも多い。それでもストーリーがしっかり進んでいくのが面白い。
 劇中で詳しく解説されている女児の行方不明事件は1976年に実際にあった出来事で、ほぼ劇中の通りの経過をたどっている。この一大イベントをリアルタイムで体験できなかったことは非常に残念だが、各種資料やネット上の情報を引照してみると、本作は当時の状況をよく描写しているようだ。オチは投げっぱなし、かつショッキング。

「第四話 玲子さま事件」
 あたしにとり憑いてる玲子さまの悪口を言ったら酷い目にあうよ! 一太郎のクラスへやってきた転校生がそんな尖った自己紹介をした。彼女の名は佐久間正美。さすがに先生が制止に入るが、その途端、花瓶や黒板消しが彼に向かって飛ぶ。ポルターガイストである。それ以来、玲子さまの悪口を言ったもの、霊魂の存在を信じないものに対して次々に不幸が起こる。

 上記第三話とよく似た印象のエピソード。能力者の暴走を続けて描いた作者の意図は分からない。しかし両作には明確な差異があり、そのあたりから著者の意図を推し量ることができるかもしれない。まずこの第四話では解説が削られて、ストーリーの進行に比重が置かれている。多少年少者向きになってるようにも感じられる。そして第三話で能力を振るう主体がブチ切れた田岡君だったのに対して、このエピソードの正美は強力な霊感体質なだけで、能力の主体は彼女に憑依している玲子さまである。害をなすのが能力者自身ではない点は大きな差異だ。

「第五話 恐怖の人魂事件」
 一太郎のクラスメイトが人魂の写った写真を持ってきた。昨日墓場で撮影したとのこと。早速調査に赴いた一太郎の前に早速人魂が出現、朦朧とした一太郎を誘うように宙を舞った。ふと気付けば一太郎は墓場にいる。目の前には一人の少女。とまどう一太郎に人懐っこく話しかけてくる。「あたいとあそんでくれない?? 人殺しごっこよ!!」

 コンパクトにまとめられた好編。属性の異なる複数の人魂がうまく用いられている。高橋葉介のマンガに出てきそうな墓場の女の子が可愛らしい。卒塔婆を振り回して大暴れする。

「第六話 人食い沼の恐怖」
 クラスメイトの女子、玲子の姉の親友が底なし沼に落ちて死亡した。姉、弘子は捜索に向かうと聞かないらしい。そこで一太郎にも一緒に行ってくれないかとのことだった。沼には不吉な噂があるという。それを聞きつけた一太郎父は大いに盛り上がった。「そいつは信州の慟哭寺沼だ!! とにかくいってみるか、わたしも」といつになく嬉しそうだ。初日の捜索を終えて眠りについた頃、女の絶叫が響き渡った。弘子の姿がないらしい。屋外を探し回った一太郎は、今まさに沼に引き摺り込まれようとしている弘子を発見した。

 お出掛け回。結構かわいいクラスメイトの姉妹と一太郎、そこに一太郎父を加えた信州旅行である。このエピソードには百太郎がサジを投げるほどの最強クラスの悪霊が登場するが、一番印象に残ったのは事件を耳にした一太郎父のはしゃぎっぷり。笑顔で拳を握りしめ猛烈に嬉しそうだ。夜の沼の黒い水面や悪霊群の表現はさすがに大迫力。湿気のある雰囲気が素晴らしい。不吉な将来を示唆するエンディングも余韻があってよかった。

「第七話 殺人浮遊霊」
 体調を崩して寝込んだ一太郎父のところに見舞客があった。懇意にしていた霊能者の鎌倉先生である。霊障ではないかということで、霊視を依頼したのだ。父親は怖ろしい顔をした老婆の霊の仕業ではないかという。霊視をはじめた鎌倉先生は突如苦しみ出し、錯乱して自動車に身を投げ出した。そして「あの霊には気をつけろ」と言い残して死亡した。まずは霊の正体を知るべくコックリ方式で霊とのコンタクトを試みる一太郎だったが、現れたのは着物姿の若い女の霊だった。父親のいう老婆の霊とは掛け離れた様子に戸惑う一太郎だったが、その女の霊こそ怖ろしい殺人浮遊霊だったのである。

 ごくスタンダードで特に目新しいところのない心霊譚だが、めくりの効果も考慮された霊の表現がとにかく怖い。筆で一気に描き上げたような荒々しい霊の姿は、それだけでエピソードの価値を高めている。この第七話がひとまず無印の百太郎の最終話にあたる。ラストシーンはお得意の見上げた空に浮かぶ百太郎である。

 以上七つの短編は『月刊少年マガジン』1976年2月号〜同年12月号に掲載。『週刊少年マガジン』の連載と同時に描かれていた。短編だけに『週刊少年マガジン』版に比べるとごってりとした読み応えには欠けるが、少ないページ数をいっぱいに使って百太郎ワールドが展開されている。



『うしろの百太郎〈6〉』
 講談社 1983 KCスペシャル 36
 著者:つのだじろう

 ISBN-13:978-4-0610-1036-9
 ISBN-10:4-0610-1036-0
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Posted byserpent sea

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