つのだじろう『うしろの百太郎〈6〉』その1

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 つのだじろう『うしろの百太郎〈6〉』講談社 1983 KCスペシャル 36

「第十九章 奇跡の心霊治療」
「わからん……今度の事件ばかりは……」そう呟く一太郎父。事件とは前巻「第十八章 幽霊寺の怪」(←前の記事へのリンクです)で描かれた心霊絡みの殺人事件である。一太郎親子は揃って事情聴取を受けるが、真実を語っても当然官憲は信じようとしない。そればかりか逮捕さえ匂わせてくる。思い余った一太郎は幽体離脱をして百太郎に縋ろうとするが、現れたのは前話に登場したものと思しき軍刀だった。怖ろしい勢いで飛行する凶刃は、一太郎を尾行していた刑事の背中に深々と突き刺さった。殺人未遂の現行犯で逮捕される一太郎。刑事は瀕死の状態で手術室に運び込まれたが、彼の証言がなければ冤罪は免れない。絶体絶命のそのとき、眩い光とともに百太郎が顕現する。
 この一連の事件の後、一太郎親子はフィリピン人神霊手術者ドクター・マブティとの知己を得、神霊手術の実情を知る。

 陰惨な前回の事件からの奇跡の心霊治療。ストーリーは少しの強引さも感じさせず、前話から滞りなく繋がっている。で、今回もも選ばれしファミリーである一太郎親子は酷い目にあっている。悲惨なのは一太郎親子の受難が、直接的な霊障によるものでないところ。心霊に無理解な凡庸な人々からの仕打ちである。このエピソードに限ったことではないが、著者の経験と思想に裏打ちされたこの手の描写には毎度鬼気迫るものがある。『うしろの百太郎』は心霊現象を疑似科学的に解説したエポックなオカルト漫画だが、ストーリー的には聖家族の受難の物語としての色合いが濃い。
 後半、謎のフィリピン人ドクター・マブティの唐突な登場以降、一連の事件が一段落した一太郎親子は漫然と聞き手に回っている。劇中に出てくる手術シーンは、かつてTVの心霊番組でよく見た心霊手術そのままの描写。懐かしい。

「第二十章 怪異・霊界電話」
 一太郎父がまたとんでもない装置を開発した。「ひょっとすると霊の声が聞こえるかもしれない」という「霊界電話」である。被験者は一太郎の担任「西丸先生」とその妹「恭子」。恭子は結婚式を明日に控えているが、気掛かりなことがあって研究所を訪れたのだった。気掛かりなこと、それは前話のラストで、一太郎が西丸先生の隣に血みどろの花嫁を霊視するという一幕があったのだ。西丸兄妹には全く心当たりがないらしい。早速、霊界電話を用いて霊との接触を試みることになった。オブザーバーは女子中学生の船越霊媒である。起動した装置から聞こえてきたのは、いかなる手段を用いても花嫁の恭子を殺害するという悪霊の声。
 結婚式の当日、霊言の通りに殺人事件が発生してしまう。しかし殺害されたのは恭子の身代わりに花嫁衣装を着た船越霊媒だった。責任を痛感し、研究に打ち込む一太郎父。霊界電話の波長に引かれ悪霊の群れが押し寄せているが、彼はそれに気付かない。やがて狂気を孕んだ父親は一太郎を殺害しようとする。そこに現れた百太郎は父親を殺さなければ一太郎自身が死ぬと告げる。

 このエピソードは雑誌『週刊少年マガジン』に1973年から1976年まで連載された本作『うしろの百太郎』の最終回にあたる。出刃包丁を突きつけ合う親子、再度死亡する女子中学生霊媒船越、百太郎VS百太郎等々、最終回らしくすごい展開が目白押し。シリーズ通して最も大規模なバトルシーンもある。上で「聖家族の受難」なんて書いたばっかりであれだけど、このエピソードに関しては完全に暴走した親父の自業自得だ。
 物語の発端となった霊界電話は、一太郎父発案、ある電子工学研究所製ということになっている。CSでやってた心霊番組ではアメリカ人がEVPをアプリかなんかで録音してたけど、あれのハイエンド版って感じ。晩年のエジソンも同様の装置を開発していたという。自分は透けるメガネを夜店で買って以来、この手のガジェットを全く信用していないが、それでも欲しいことは欲しい。そういえば結構前にEVP検知装置を販売していた会社が前金を集めてトンズラしたって事件があったけど、あれは結局どうなったんだろう。商品は送られてきたのだろうか。
 ちなみに自分が透けるメガネを買ったのは、今考えると相当奥手だったと感心してしまうのだが、エロい目的じゃなくてマジで人や動物の体内を透かして見たかったのである。もちろん夜店のアイテム、赤いフィルムの間に鳥の羽根が挟んであるだけの代物にそんな性能があるはずもなく、大いにがっかりした。あと中学の時に「頭の良くなる装置」を買ったやつもいたが、さすがにそんなの買うだけあって結果はお察し。

 さてこの第二十章をもって『週刊少年マガジン』版無印百太郎は完結するが、この第6巻には『月刊少年マガジン』に掲載されていた読み切り短編が7編収録されている。感想は後日。



『うしろの百太郎〈6〉』
 講談社 1983 KCスペシャル 36
 著者:つのだじろう

 ISBN-13:978-4-0610-1036-9
 ISBN-10:4-0610-1036-0
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Posted byserpent sea

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