横溝正史『黒猫亭事件』

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 横溝正史『黒猫亭事件』(『本陣殺人事件』角川書店 1973 角川文庫 金田一耕助ファイル2 所収)

 昭和22年3月、東京の郊外。巡回中の巡査が寺の一角を掘り返す若い僧「日兆」の姿を目撃する。巡査が確認すると、穴の中には女の腐乱死体があった。死体の顔面はもとの顔が判別できないほど損壊されていて、検視の結果他殺と判明した。同じ場所に黒猫の死体も埋められていたため、黒猫を飼っていたという寺に隣接する酒場「黒猫」との関連が疑われた。「黒猫」は最近廃業しており、住人「糸川」とその妻の「お繁」とのあいだにはいざこざが絶えなかったらしい。それというのも二人にはそれぞれ愛人がいたのだ。糸川にはダンサーの「鮎子」が、お繁には「風間」という土建業の男が。捜査は当初死体はお繁ではないかとの線で始まったが、死亡推定日時から該当しないことが判明した。続いて鮎子ではないかとも考えられたが、彼女に関する情報はごく少なく、行方もわからない。糸川夫婦の消息も全く掴めず、結局警察は「黒猫」の従業員と日兆の証言を頼りに捜査を進めることになった。

 顔のない死体をテーマにした中編小説。金田一を主人公とした作品としては『本陣殺人事件』(←前の記事へのリンクです)『獄門島』に次ぐ作品で、劇中にも先行する2作についての言及がある。自分はドラマ版を先に見ていたのでトリックについては特に思うところはなかったが、犯行は金田一が「「本陣殺人事件」や「獄門島」の三重殺人事件のような、小道具の妖美さはないかも知れない。(中略) しかし、犯人の計画のドス黒さ、追い詰められた手負い猪のような、自暴自棄の凶暴さ、そういう意味では、とてもまえの二つの事件の比ではない」(p.283)という通りの相当陰惨なもの。トリック自体の面白さというより、トリックを通じて犯行の陰惨さや犯人の反社会性を描き出すことに主眼が置かれている。
 で、その金田一だけど、毎度のことながらこれがなかなか出てこない。全編の半分以上が過ぎたあたりでようやく登場する。もっとも本作の捜査陣はわりと実直に捜査を進めるので、嘘っぽく無能な登場人物にイラっとすることなく読むことができた。金田一を担ぎ出した「風間」が、中学の同窓生ってことで金田一を「耕ちゃん」と呼ぶのが、全体に暗いトーンの中でやけに楽しかった。また金田一がしばらく出てこないからってわけではないだろうけど、冒頭には金田一から著者への手紙と、小説『本陣殺人事件』をきっかけに著者と金田一が知り合った経緯、推理小説のトリックに関する二人のやり取りが書かれていて、本編に勝るとも劣らない面白さだった。

 前述の通り本作もばっちりドラマ化されている。CSでたまにやってるので何度も目にする機会があった。「お繁」役は映画の「獄門島」(1977)で「分鬼頭巴」を演じた太地喜和子。



『本陣殺人事件』
 角川書店 1973 角川文庫 金田一耕助ファイル2
 著者:横溝正史

 収録作品
 「本陣殺人事件
 「車井戸はなぜ軋る」
 「黒猫亭事件

 ISBN-13:978-4-0413-0408-2
 ISBN-10:4-0413-0408-3
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Posted byserpent sea

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