加藤一『「超」怖い話 Ι(イオタ)』

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 加藤一編著, 松村進吉, 久田樹生共著『「超」怖い話 Ι(イオタ)』

 このレーベルにおいて加藤一が編著を担当した最初の一冊。全62話というのはこの本が出た時点では最多収録数だったらしいけど、短い作品ばかりがずらっと並んでるといった印象はなく、1ページに満たないエピソードから数ページに及ぶものまでが、適度なバランスで配置されている。全体の印象としては背筋が凍るというより、不思議な話が多い。なかにはなんとも形容しがたい不気味な話もある。

「ひとさらい」子供にとって親が激しく動揺する姿というのは、生半可な怪談では到底敵わないほどに怖ろしいものだ。なんせそこだけは盤石じゃないと……ってところが揺らいでるのだから。そんな子供の立場からすると、このエピソードの両親のリアクションはことごとく怖い。
 すべてのきっかけは山のキャンプで父親が話した怪談だったらしい。体験者はベッドで息を殺していて、両親がひどいパニックを起こしていること以外に、状況をほとんど把握できていない。震えながら両親の様子を窺う体験者の怯えや心細さが、過不足なく描かれている。ただオチはかなりおとぎ話チックで、いっそ前フリに使った方がよかったような気もする。

「鶏」ふいに訪れる不気味な出来事。アパートのチャイムが鳴る。ドアスコープの向こうには誰もいない……。
 ワンフロア全戸のインターフォンをまず最初に押してまわるような訪問販売のせいで、似たような経験をした人もいるかもしれない。ただこのエピソードの場合は、ドア一枚隔てた向こう側から、突然鶏の鳴くような耳障りな声が聞こえてくる。どんどんエスカレートする声にスコープを覗いてみると、そこには……という話。体験者は一人暮らしの女性である。状況がリアルに想像できて気味が悪い。親子にまつわる因縁話の要素も含んでいる。

「睨み女」自宅の薄暗い中庭に女がいる。どうやらこの世のものではないらしい。最初にそれを見つけたのは体験者の妹だった。女は怖ろしい形相でこちらを睨みつけている。助けを呼びたくてもこんな話、誰も信じてはくれないだろう。そんなものが見えるのは、親族のなかでもこの姉妹二人きりなのである。
 タイトルからしてすでに嫌な感じだ。見えるだけでなんの対処もできない姉妹が、必死になって恐怖に抗う様子が巧みに描写されている。本書に収録されている全62話のうち最も嫌な印象を受けた。後味もよくない。

「逆天井」2ページの小品。トイレと逆さまの幽霊という古典的なモチーフに、夢を絡めて少し捻りを加えている。シンプルながらおもしろい作品。

「追突注意」UMAや妖怪が好きな人にとっては、とても興味深いエピソードだと思う。水木しげるの『ゲゲゲの鬼太郎』に出てくる「ノヅチ」のようなでっかい怪獣が、朝っぱらから堂々と登場する。目撃談らしくヤマもオチもないけど、河川敷の鮮明なイメージは強く印象に残る。目撃者が一人じゃないらしいのもよかった。

「遺品整理」実話怪談のなかには、まれに具体的な怪異が少しも描かれずに、ただデータだけが淡々と提示されるという作品がある。読者は体験者とともに、そのデータにあれこれ想像をめぐらせ、やがてそれが示唆するものに少しずつ気付いていく。このエピソードもまたそんな趣向の作品である。ここでは体験者の祖母が残した古い日記に、そのデータが記されている。ことごとく非業の死を遂げた親族の名前の羅列。どうやら祖母はそこに何らかの共通点を見いだしていたらしい。これもまた嫌な感じの話だ。収録作のなかでは長めの作品。

 ここでは取り上げなかったけれど、幽霊がばっちり出てくる話も多く収録されているほか、病院の怪談、猫にまつわる怪談などが、ある程度まとめて掲載されている。最初に書いた通りあまり怖くはないんだけど、不思議な話が好きな人にはおすすめ。丁寧に構成されている印象の本。


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Posted byserpent sea

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