フィッツジェイムズ・オブライエン『あれは何だったか?』

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serpent sea
 

 フィッツジェイムズ・オブライエン(Fitz-James O’Brien)著 橋本福夫訳『あれは何だったか?』(“What was it?” ラヴクラフト・他著 大西尹明, 橋本福夫訳『怪奇小説傑作集〈3〉新版』東京創元社 2006 創元推理文庫 所収) ※自分が読んだのは旧版です。

 わたしはニューヨーク二十六番通りの邸宅で暮らしている。この建物には二年ほど前から幽霊屋敷の噂があって、しばらく空き家になっていた。そこで好奇心旺盛な前の下宿の住人たちと一緒に越してきたのである。ところが期待していたような怪奇現象はさっぱり生じない。わたしは同じ悪癖の持ち主「ハモンド医師」とともにアヘンに溺れる怠惰な日々を送っていた。
 怖ろしい事件が発生したその日、わたしは早々と部屋に戻ってベッドに体を横たえた。すると待ち構えていたかのように、何者かがわたしの腹の上に落ち、骨ばった手で喉を締めあげてきたのだ。わたしは必死で抵抗し、ついに相手を捕縛することに成功した。あとはガス灯を明るくして、そいつの顔つきを確かめてやるのだ。

 バリエーションに富んだ怪談を収録したこの第3巻の中でもかなりユニークな作品。最初は普通の幽霊屋敷ものっぽく始まるが、ずらずら続くアヘンの記述にさては主人公の幻覚オチかよーと思い始めたところに、透明な怪物が賑々しく登場する。幽霊とかじゃなくて、実体のある怪物。素晴らしいのはまさにこの「実体のある透明の怪物」がバッチリ出てくるところで、主人公の幻覚オチじゃなくてほんとよかった。
 解説には「目に見えない怪異を精密に書いたものとして、よくモーパッサンの「ラ・オルラ」に比較されます」とある。シチュエーションをはじめ確かに共通点は顕著で、自分も『オルラ』(“Le Horla”)を連想した。ただ『オルラ』には怪物云々よりも、主人公のリアクションを精密に書いた作品という印象が強い。また同じ第3巻には最凶の巨大透明怪物が出てくる『ダンウィッチの怪』(“The Dunwich Horror”)が収録されている。さすがにあれと比べるにはジャンルが違いすぎるだろって気もするが、迫力こそ及ばないものの、本作の怪物も精密で実感たっぷりな描写に関しては勝るとも劣らないし、その薄気味の悪さは相当なものだと思う。
 面白いのは劇中での怪物の取り扱いで、縛る、撫で回す、晒す、最後には石膏で型取りまでしている。本作に限らず、見えなかったものが可視化していくプロセスには、単に怖いだけじゃなくて、得も言われぬワクワク感がある。→「そいつは人間そっくりのかっこうをしていた―いびつな、ぶかっこうな、醜悪な姿には相違なかったが、それにしても、人間だった。からだは小さく、身長は五フィート数インチ程度だったが、手足は比類のないほどのたくましい発達ぶりを示していた。(中略)この生物の人相は、吸血鬼ならこうもあろうと思われるほど凶悪をきわめていた。ちょっと見たところ、人間の肉でも常食にしていそうな顔つきだった」(p.154)
 古い心霊写真集に載ってた「石膏製の幽霊の腕」を覚えている人がいるかもしれないが、この作品はウィリアム・デントン教授がパラフィンと石膏を用いて、あの幽霊の型取りを始めるよりも前に発表されている。



『怪奇小説傑作集〈3〉新版』
 東京創元社 2006 創元推理文庫
 著者:ラヴクラフト・他
 訳者:大西尹明/橋本福夫
 解説:平井呈一

 収録作品
 『ラパチーニの娘』(“Rappaccini’s Daughter”)ナサニエル・ホーソーン(Nathaniel Hawthorne)
 『信号手』(“No.1 Branch Line:The Signalman”)チャールズ・ディケンズ(Charles Dickens)
 『あとになって』(“Afterward”)イーディス・ワートン(Edith Wharton)
 『あれは何だったか?』(“What was it?”)フィッツジェイムズ・オブライエン(Fitz-James O’Brien)
 『イムレイの帰還』(“The Return of Imray”)R・キップリング(Rudyard Kipling)
 『アダムとイヴ』(“Adam and Eve and Pinch Me”)A・E・コッパート(A.E.Coppard)
 『夢のなかの女』(“The Dream Woman”)ウィルキー・コリンズ(Wilkie Collins)
 『ダンウィッチの怪』(“The Dunwich Horror”)H・P・ラヴクラフト(H.P.Lovecraft)
 『怪物』(“The Damned Thing”)A・ビアース(Ambrose Bierce)
 『シートンのおばさん』(“Seaton’s Aunt”)ウォルター・デ・ラ・メア(Walter de la Mare)

 ISBN-13:978-4-4885-0103-7
 ISBN-10:4-4885-0103-6
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Posted byserpent sea

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Re: はじめまして

>>雪乃さん
コメントありがとうございます!

怪奇系の本で最近読んだ中で一番のおすすめは、郷内心瞳『拝み屋郷内 花嫁の家』(MF文庫)です。
一応実話怪談ですが、心霊怪奇小説としても出色の一冊です。怖いのお好きなら是非。

怪奇系でない本では宮本常一『ふるさとの生活』(講談社学術文庫)がよかったです。
著者が日本中を歩いて見聞きした庶民の文化、伝統などについて、子供向けに分かりやすくまとめた本です。
書かれているのは自分の知らない頃の日本の姿なのですが、
なぜか懐かしいような、何とも言えない気分になりました。ぼーっと読むのに向いてると思います。

2018/09/18 (Tue) 00:15 | EDIT | REPLY |   
雪乃  
はじめまして

訪問頂きありがとうございます。
シックでクール。素敵なブログですね。
たくさん本を
読まれているように感じます。
一番のオススメはどんなものなのでしょうか?
気になりました☆

2018/09/17 (Mon) 03:44 | EDIT | REPLY |   

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