つのだじろう『うしろの百太郎〈5〉』その1

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 つのだじろう『うしろの百太郎〈5〉』講談社 1983 KCスペシャル 35

 本作の集大成とも言えるエピソード「イヌ神つき伝説」の続編(後編)と、さらにその後日談「第十六章 公開交霊実験会」「第十七章 転生輪廻の謎」を収録する。非常に濃い一冊。

「第十五章 続・イヌ神つき伝説」
 前巻で発生した「新妻薫先生」による一連の事件は、「美人教師かみつき事件」としてマスコミで大きく取り上げられることになった。一太郎父子は新妻先生とその父親「新妻教授」とともにTVの検証番組に出演する。番組は心霊を見世物にした低俗なものだったが、共演した山伏によって新妻先生がイヌ神に憑かれていることが判明した。もともと新妻家は四国の出だったのだ。一太郎父子と霊能者の「船越先生」は、新妻先生を救うべく困難な「イヌ神おとし」を遂行するが、新妻教授をはじめとする心霊否定派の執拗な妨害を受ける。

 前話が映画の『リング』(1998)なら、こっちは『リング2』(1999)なテイスト。感電して拘束服でエビ反りになる一太郎父の、凄まじい描写が印象的だった。俗信と擬似科学、精神病理学が重層的に、濃厚に絡み合う、これぞ百太郎って感じのエピソードである。もちろんマスコミに対する著者の辛辣な視点、怨念も含めて。
 テーマとなっているイヌ神については、「イヌ神スジ」「イヌ神モチ」、婚姻にまつわる慣習などなど、かなり危うい感じの話が劇中で詳細に解説されている。百太郎にはハウツーや解説に終始するような話があって、それが作品の特色にもなっているが、やはりこのエピソードのようにストーリーに解説が自然に組み込まれている方が読みやすい。
 とりあえず今回で新妻先生のイヌ神は祓われたが、大団円とはいかない。著者の怨念はこのエピソードでは昇華しきれないほど深いのである。

「第十六章 公開交霊実験会」
「あいつを学校へいれるなっ!!」「二度と学校へなんかくるなっ!! ばかやろう」登校した一太郎に降りかかる罵声、殴る蹴るの暴行。這々の体で帰宅すると、後研究所は暴徒に囲まれている。TVのワイドショーが新妻教授の偏った証言をもとに、一太郎父子の除霊をインチキだと断じたのだ。一太郎父子は船越先生の協力を仰ぎ、事態を収拾するためマスコミ各社を招いた「公開交霊実験会」を執り行う。ところが実験の最中、船越先生のエクトプラズムに新妻教授が掴みかかるという事案が発生する。マスコミ各社の報道は心霊現象を目の当たりにしてもなお、否定派に肩入れした酷いものだった。マスコミの背後には自説を曲げようとしない新妻教授がいる。エクトプラズムにダメージを受け、衰弱しきった船越先生は意を決して断食に入った。自らの命を賭して新妻教授に心霊現象の実在を知らしめようというのだ。

 これまで陰に日向に一太郎父子を支えてきた船越先生が壮絶な死を遂げる。死んで新妻教授のもとに現れるというとんでもない作戦だ。絵面だけ見ればドイルの『霧の国』(“The Land of Mist”)のチャレンジャー&サマリー両教授を彷彿とさせるが、このエピソードの二人はあんな感じのカラッとした関係ではない。作品からは船越先生の行いを正当化しようと苦慮する様子が窺えるが、読者からすればどーみても自殺者の怨霊なのでなんとも応援しづらい。スッキリしない。
 あと子供の頃に読んだ際には全く気にならなかったのだが、このエピソードの一太郎はこれまで以上に「特別なうちの子」感を醸し出しているように感じた。なにせ心霊研究所の子である。狙ったのかどうかわからないが(多分狙ってない)、一太郎だけが私服登校なのもその印象を強めている。そしてもう一人、このエピソードには「特別なうちの子」が登場する。新妻薫先生である。途中から少々存在感が薄くなってしまったが、前話の生い立ちから察するに、彼女は間違いなく「特別なうちの子」だったろう。直接的に描かれる心霊肯定派と否定派の対立の影に、一太郎と新妻先生という二人の「特別なうちの子」の宿命が示唆されている点に本作の奥行きが感じられる。

 それにしても心霊は本作においてもTVカメラが苦手なようだ。フィクションなんだから盛大に出してもよさそうなものなのに、著者は頑なにそうはしない。単にリアリティ確保のためなのかなとも思うけど、新妻教授が変節する過程を見るに、著者は心霊現象の類いをごくプライベートな体験だと捉えていたのかもしれない。
 著者は1999年に出た『コミック・ゴン 第4号』に6ページの読み切り作品を発表している。タイトルは『超常現象はあるか? ないか?』。TVの超常現象ディベート番組をネタにした作品で、実在の芸能人と思しきキャラクターが登場する。内容はマスコミに対する不信感の表明の後、TV番組の収録中にオバケが大挙して顕現し、出演者が「プラズマだあっ!!」と叫んで目を回す。出演者の懐から「辞表」がスポンと飛び出してるのが芸コマ。そしてこれで終わりかと思いきや、最後の最後に百太郎を背負った著者が登場して一言、「…てなことが起きなかなあ…と思っている…きょうこのごろでございます」……やっぱ心霊現象は著者にとって、決してパブリックなものにはならない、ごく個人的な現象なのだろうか。──以下、つのだじろう『うしろの百太郎〈5〉』その2に続く。



『うしろの百太郎〈5〉』
 講談社 1983 KCスペシャル 35
 著者:つのだじろう

 ISBN-13:978-4-0610-1035-2
 ISBN-10:4-0610-1035-2
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Posted byserpent sea

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