加藤一『恐怖箱 怪生』

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 加藤一編著『恐怖箱 怪生』竹書房 2011 竹書房文庫 HO-123

 人間以外の生物にまつわる実話怪談を36話収録。「人間以外の生物」には植物も含まれる。それぞれの話の長さはまちまちだが、比較的長めの話が多い。構成はランダムではなく、例によってモチーフごとにゆるく分類されている。
 怪談に出てきそうな生き物というと、ぱっと思いつくのがネコ、蛇、キツネ、あとタヌキは民話っぽいか。植物なら呪いの一本杉や一本松、ドクロの目から生えるススキやタケノコって感じ。……民話っぽいな。本書に登場する生き物は、ネコやイヌをはじめ、魚類、クジラ、インコやツバメ、昆虫、草花や野菜など、実に広範だ。なかでもネコにまつわる怪談は多くて、怪談とその属性との親和性もさることながら、これはネコが特に身近な生物であることの証左だろう。印象に残った話を簡単に紹介します↓

「鯛の餌」明け方の海。釣り場に到着早々、釣り上げた大きな真鯛に同級生が親指を噛まれてしまう。鯛に頑丈な歯があることを知らなかったのだ。幸い大事には至らなかったが、今度は素っ頓狂な声を上げて尻餅をついてしまった。鯛の口から何か生き物が出てきたという。おそらく「タイノエ」という寄生虫だろう。狼狽する同級生を落ち着かせようと、体験者がタイノエに顔を近づけた途端、背筋を冷たいものが駆け抜けた。それは体験者の知るタイノエとは全く異なる異様な生物だった。
 もともとタイノエ自体がキモいのでなんだかずるい気もするが、出てくる極小の怪異がキモさを上回る不思議さで、気持ち悪いけど興味深い話になっている。状況や登場人物のリアクションがリアルに描写されていて、とんでもない話だけど嘘臭くない。イワナ坊主の話もそうだけど、魚の怪談って生理的に訴えかけてくる話が多いような気がする。あと「タイノエ」はものすごく閲覧注意なので、検索するときは心して。

「伝染」裏道を歩いていると雑草の中に小さなシマヘビがいた。見るからに妙な様子で、体を棒のようにまっすぐ伸ばして固まって死んでいる。翌日、同じところを通ると、今度は大きなヒキガエルがいた。近寄ってみるとあの蛇の死体をくわえたまま、コチコチに硬直して絶命していた。そしてまた翌日、体験者はさらに驚くものを見ることになった。
 硬直した蛇というと、『今昔物語』(←前の記事へのリンクです)の女性器を見て固まってしまう蛇の話が思い出されるが、それが次々に感染していくというのが面白い。ばっちりオチもついていて、実話怪談にしては少々面白すぎるように思う。

「美味しい野菜」体験者の夫婦が買った家の隣には、老婦人が一人で暮らしていた。大変人柄のいい人で、夫婦も親しく接していた。しかも彼女が育てた野菜がすこぶる美味かった。友人を集めたバーベキューパーテにその野菜を出してみたところ、やはり評判は上々。見栄えこそ悪いが味は最高だった。ところが一人の友人が申し訳なさそうにこう切り出した。「あの野菜、凄く良くない。ううん、味とかじゃなくて……」後日、体験者は老婦人の野菜がどこで育てられたかを知る。
 これといって具体的に怪異が生じているわけではないが、嫌な雰囲気が漂っている。老婦人が本当に無頓着に何も意識せずに野菜を育てていたのか、悪意があったのか分からないのが不気味。買ったばかりの家の隣に、こんな人物が住んでいたら辛い。

「枯れ松」母が同居を申し出た。結婚当初から母と折り合いの悪かった妻は、意外にもあっさりと同居を受け入れてくれた。そればかりか「お母様が寂しくないようにって思って」と、松の木を手に入れてきた。ただ、届いた松は何となく荒んで見えた。木肌も荒れ、枝振りも良くない。そこで植木屋を頼んだのだが、庭に入るなり松の木を睨みつけて一言、「あの松、何人も首吊ってますぜ」
 嫁姑問題に端を発する強烈な呪いの話。上記の「美味しい野菜」では善意か悪意か判断のつかない隣人の行動が不気味だったが、このエピソードでは恐るべき悪意が明確に示されている。そこまで憎かったのか! って感じ。奥さんはどうやってこんな「呪い方」に辿り着いたのだろうか。またどんな経緯でここまで問題が拗れたのか。この話にもしっかりとしたオチがついている。

「名もなき猿」義父が肝臓癌で倒れた。それをきっかけに同居することになったが、義父の荷物の中には風変わりなものがあった。大きな檻である。猿を飼うのだという。しかも食べるために。義父にとって猿は癌の特効薬なのだそうだ。今すぐ食べるのではない。苛めて苛めて苛め抜いて、ストレスに満ちた内臓を食するという。その日から猿の悲鳴が途切れなく続いたが、義父はそんな猿を食べることもなく帰らぬ人となった。ところが義父のいない部屋で猿が鳴きはじめたのである。義父が生きていた頃と同じように、死んだ真似までする。義父はまだ成仏していない。きっと猿を食べたいのだ。
 死後も続く狂気。この話も同居をきっかけに怪異が発生しているが、焦点は死と対峙した義父の狂気である。そもそも猿を苛め抜いて薬として食べるという発想が尋常じゃない。もうずっと以前からひっそりと狂っていたのかもしれない。ラストの仏壇のシーンが怖かった。

 怪談のネタとしてはポピュラーな動物ものだが、このくらい色々な種類のものが集められていると、似たようなのばかりって感じじゃなくてよかった。こうしてみると、やはり人間の側に問題のあることが多い。



『恐怖箱 怪生』
 竹書房 2011 竹書房文庫 HO-123
 編著:加藤一
 著者:つくね乱蔵/ねこや堂/雨宮淳司/久田樹生/戸神重明/高田公太/三雲央/
    寺川智人/深澤夜/神沼三平太/鳥飼誠/渡辺正和/矢内倫吾/鈴堂雲雀

 ISBN-13:978-4-8124-4755-0
 ISBN-10:4-8124-4755-0
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