手塚治虫『ドン・ドラキュラ〈3〉』完

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 手塚治虫『手塚治虫漫画全集 MT250 ドン・ドラキュラ〈3〉』講談社 1982

 最終巻。収録全9話のうち、チョコラが完全にメインなのは2話。もちろんほかの話でもヒロインらしく重要な役割を担っている。いつもならそんなチョコラの活躍について書いて満足してしまうのだが、この第3巻には、全巻を通して伯爵が一番かっこいいんじゃないかって話が収録されている。

 その話というのは「第1話 かろうじてドラキュラ」。伯爵とチョコラが渋滞中のトンネル火災に巻き込まれて、数人の人々とともにトンネル内の避難所でカンヅメになるという話。避難したなかには指名手配犯なんかもいて一悶着あるんだけど、見所は吸血鬼父娘の超人ぶり。熱気にあてられても青酸カリを飲んで復活、もちろん銃弾なんか歯牙にもかけない。一般人の目線で描かれていることもあって、「吸血鬼が人助けをするなんて/めったにないことなんだぞ」(p.23)と言い残して去る姿は、まさに魔人って感じでかっこよかった。

 チョコラがメインの話は、まず「第2話 なぜか今ドラキュラ」。逃げ出した虎とパンダの子供を、チョコラが母性本能全開で保護する話。これ吸血鬼じゃなくていいじゃんって気もするが、チョコラがごく普通の女の子らしくて、これはこれでなかなか。劇中、イゴールがおとりになってパンダのコスをするんだけど、そのまれに見る不細工さが印象的だった。
 それから風邪をひいてすっかり弱ってしまった父親のために、チョコラが夜の町を徘徊して処女探しをする「第4話 くるしまぎれのドラキュラ」。「あたしんち/きてくださらない」とか「あたしとつき合ってくださる?」(p.74)などと、適当な女性に声を掛けてまわる。そこはかとなく人見知りっぽくて、見かけ上の年相応に世間知らずなところがいい。変装して父親に喉を差し出すラストはちょっとエロい。ほかにも「第7話 ドラキュラくずれ」では小4の男の子たちにお姉さんぶったりしていて、これがまたかわいかった。

 チョコラをはじめ、魅力的なキャラクターの活躍をもっと見たい読者からすると、全3巻というのは短すぎるような気もする。でも徐々にウエットだったり、アイロニカルだったりする展開が目立ちはじめていたので、「怪喜漫画」を終わらせるタイミングとしては、適切だったのかもしれない。あっけない終わり方だけど、この作品らしい。

「ドン・ドラキュラ」は、ぼくの読者の評価やぼくの作品の中の位置づけは別にして、こんなに描いていて楽しい作品はありませんでした。(著者あとがきより)




 ※フキダシからの引用は、読みやすいように改行を調整しています。


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Posted byserpent sea

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