川島のりかず『呪いの針地獄』

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 川島のりかず『呪いの針地獄』ひばり書房 1985 ヒット・コミックス 怪談シリーズ 97

 怪死事件がたて続きに発生した。被害者は無数の縫い針を全身に突き立てられ、ハリネズミのような姿で死亡していた。調査の結果、すべての針が体内から体表に向けて刺さっていることが判明した。常識ではありえない事態に捜査は行き詰まるが、事件の原因はひと月ほど前にひっそりと生じていた。
 少女の名は「菊子」。小学校5年生である。おかっぱ頭で背が飛び抜けて小さい。最近クラスメイトから激しいいじめを受けるようになった。菊子は母親と郊外の一軒家に二人で暮らしている。あまり裕福ではない暮らしぶりだ。男にだらしない母親は、昼間から愛人を連れ込んで情事にふけっている。この愛人「西」という男が二人目の被害者である。一人目の被害者は菊子のクラスの女子。菊子に殴る蹴るの暴行を加えたクラスメイトの一人であった。
 菊子は呪った。藁人形に五寸釘を打ち込み、縫い針を突き刺して、クラスメイトや母親の愛人の死を願った。自らの命と引き換えに。

 著者にはとてつもないディストピアや、対象年齢を完全に無視したダークなファンタジー世界を舞台とした作品がある。凝りに凝ってプロットをいじくり回した挙句、何が何だかさっぱりになってしまった作品や、ろくなストーリーもなくひたすら殺戮が繰り広げられる無茶な作品もある。どれも一筋縄ではいかない名作ばかりである。誰もが通り過ぎた覚えのあるようなその辺の郊外を舞台にしたこの『呪いの針地獄』は、作者としては珍しくシンプルな作品だ。呪いの発生から成就、呪者が滅びるまでをストレートに描いている。ただし単純な呪いではなくて、菊子のサイキックの発動がいい感じで描写されてるあたり(蛍光灯が破裂する等)、さすが「SFミステリー」というところか。川島のりかず版『キャリー』(“Carrie”)といった趣である。またストーリーがシンプルなだけに、著者の映像的で神経質な作画を堪能することができる。

 前に書いたかもしれないが、自分はこの著者の作品が好きだ。SFホラーの枠に捉われない(突き抜けてる)自由奔放な発想に、繊細な表現力が奇跡的に加わって、他に例をみない特異な作品となっている。この『呪いの針地獄』にも著者の卓抜したセンスを感じさせるシーンは多い。例えばこんなシーン→ 情事の後の母親の布団に潜り込んだ菊子が母親の乳房を吸う。「あ、あ、バカ。菊子は何歳になったのもう」「ママのオッパイ吸ってると菊子、安心できるんだもん」「いつ乳離れするの」……この甘える菊子は、母親の愛人「西」の凄惨な最後を見届けた直後なのである。なんかすごい。冒頭、夜のあぜ道で悶絶死する「西」を台詞なしで描き切った10ページにも及ぶシーンや、母親の情事を盗み見た菊子が交尾するカマキリを踏み潰すシーンも印象的だ。小5女子が全身に針を刺されて全裸で死亡するといった、いつも通り子供に厳しい描写も多々ある。やや大人しめの作品ではあるが、それでも読み応えは充分。



『呪いの針地獄』
 ひばり書房 1985 ヒット・コミックス
 著者:川島のりかず

 ISBN-13:978-4-8280-1097-7
 ISBN-10:4-8280-1097-1


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Posted byserpent sea

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