つのだじろう『うしろの百太郎〈4〉』

 つのだじろう『うしろの百太郎〈4〉』講談社 1983 KCスペシャル 34

 編集の都合でちょい見せになっていた前巻のラスト「第十一章 ポルターガイスト」の続きから始まる巻。過酷な臨死体験を経た一太郎は、守護霊と交信し、霊界をかいま見て、「第十四章 イヌ神つき伝説」では強力な悪霊と対峙する。

「第十一章 ポルターガイスト」
 前巻(←前の記事へのリンクです)からの続き~相変わらず心霊現象を信じようとせず、一太郎親子に詰め寄る捜査陣。そんな彼らの目の前で激しいポルターガイストが発生する。ラップ音が響きわたり、家具や食器が空中を飛び回る盛大な現象である。一太郎は飛んできた包丁に刺され病院に搬送されてしまう。ポルターガイストは一旦収まったように思われたが、今度は一太郎の病室が苛烈な現象に見舞われた。頼みの綱の百太郎はあらわれない。大量のメスや鉗子が一太郎めがけて飛ぶ。
 冒頭でハイズビル事件とフォックス姉妹が解説され、ストーリーは概ねこの事件を肯定的にトレースするように進行する。印象としてはずーっとポルターガイストって感じだが、どす黒い流線を描いてビュンビュン飛ぶメスやナイフの描写は物理現象ならではの迫力。百太郎が出てこないうえに、縫合した傷口をべリッと開くような流血シーンもあるのでピンチ感は半端ない。章のシメには「カリフォルニア大学バークレイ校の語学研修に参加した浪人生のAくん」からのポルターガイスト体験記が長々と引用され、こっちも読み応えがある。

「第十二章 守護霊との交霊」
 前章の事件の際、百太郎が出てこなかったことをグズグズ気にする一太郎。そこで「日本有数の物理的霊能者」にアドバイスを受け、守護霊百太郎との積極的なコンタクトを試みた。すると「はやくも出てきてくれたんですかっ」と一太郎に突っ込まれるほどの気軽さで百太郎登場。一太郎は百太郎に導かれるままに幽体離脱し、死後の世界へと赴くのだった。
「ハウツー守護霊とのコンタクト」な一編。途中、ごく自然に著者の体験談が挿入されており、著者が見た守護霊の姿が描写される。この章で解説される守護霊とのコンタクト法は→「ねる前にふろにはいって全身をくまなくあらい、さいごに冷水をかぶって自身のからだをきよめ、ふとんにはいり上をむいてねる。両手をかるくおへそを中心に図のように(逆三角形に)指をつけておく。足はそろえてかかとをつけ、自分のまくらもとに守護霊がいらっしゃる、と思って雑念をはらいそこに心を集中しておねがいする!」というもの。守護霊の名を知ってる人はその名に「なになにの命」と「命」をつけて、知らない人は「わたしの守護霊さま」と呼びかけるとある。
 後半は幽体となった一太郎が、幽体の視点で現在の世界を眺めるという展開で、夜の街に漂い佇む浮遊霊、地縛霊の描写が素晴らしい。

「第十三章 一太郎幽界へ!」
「妖精ってどんな霊だ??」そんな難解な疑問を抱いた一太郎は、父のアドバイスに従ってクラスメイトとともに妖精探し(幽界への出入り口探し)を試みるが、その最中「仲根くん」が行方不明になってしまう。どうやら幽界へと迷い込んでしまったらしく、新聞沙汰になるほどの大騒ぎになっても、その行方は杳としてしれない。一太郎は前章での経験を踏まえ百太郎とのコンタクトを試みるが、異様な世界へと吸い込まれてしまう。一太郎もまた幽界へと迷い込んでしまったのだ。
「ハウツー妖精とのコンタクト」な一編。実は以前自分はこのエピソードで紹介された「妖精探し」の方法を大マジメに試したことがある。小学生の頃の話だ。その方法は、まず古い木の根のまたのところに砂で山を作り、上を鏡で平らにしてそのフチに小石を話になるように並べ、その山に小さな階段をつけておく。もしもそこに妖精がいるなら、次の朝にはその砂の山に小さな足跡がついているという。これはもともと沖縄でキジムナーを探す方法で、本来はガジュマルの古木の根元で行うらしい。自分は小学校の桜とイチョウの木で何度かやってみたが、当然失敗。鏡の代用に空き缶で砂山を作ったのがまずかったのかもしれない。
 今後「死後の世界」は本作のより重要なテーマになり、一冊まるまる死後の世界みたいになってくるのだが、本エピソードはそのダイジェスト版って感じ。それでも和洋折衷のおどろおどろしい「幽界」は大迫力で、死神は超怖い。

「第十四章 イヌ神つき伝説」
 一太郎のクラスに新しい担任、「新妻薫」という美人先生が赴任してきた。「幽霊に詳しい」ってことで早速美人先生に呼び出される一太郎。家に幽霊が出るから、泊まりで調査して欲しいという。新妻先生の家は古色蒼然とした館で、医学博士で解剖学の権威の父親と暮らしているらしい。唐突にネズミの解剖をはじめる新妻先生。その嬉々とした様子に一太郎はショックを受ける。
 その夜、異変は発生した。クローゼットからおびただしい数のネズミが飛び出し、消える。眠っている先生が全身をネズミにかじられる幻が見える。そして先生の顔がネズミのように変形し、残酷に殺された恨み言を吐く。先生はネズミの霊に憑依されているらしい。翌日から新妻先生は、一太郎にだけ変身した姿をさらし彼をつけ狙う。そしてとうとう一太郎の部屋にまで侵入し、一太郎の父親の喉笛に食らいついた。
 主人公だけに悪霊に憑依された姿をチラ見せしながらその命を狙う先生……そんな著者お得意のシチュを採用した作品群の中で、最恐の一本をあげるとするならこのエピソードかもしれない。マジで怖い。美人先生の自宅へのお泊まりイベントなのに、悪い予感しかしない。変身後の新妻先生のネズミ顔はあんま怖くない、どっちかというとコミカルなのがまた怖い。お子様には無用のトラウマを植え付けるおそれさえある。暗い天井が見れなくなってしまうかもしれない。
 第4巻はここまでハウツー系の話が連続して、怖さはやや抑え気味って感じだったんだけど、このエピソードでは著者の本領が遺憾なく発揮されている。画面の暗いことといったらない。最後の方で新妻先生の父親で強硬な心霊否定派の教授が登場して、否定派と肯定派が真正面からぶつかる、次巻「第十五章 続イヌ神つき伝説」への前振りになっている。



『うしろの百太郎〈4〉』
 講談社 1983 KCスペシャル 34
 著者:つのだじろう

 ISBN-13:978-4-0610-1034-5
 ISBN-10:4-0610-1034-4


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コメント

No title
ご無沙汰しております。
『うしろの百太郎』の「妖精さがし」、やられたのですね。
私も雑誌連載時にリアルタイムで読んで大いにそそられましたが、実行までは伴いませんでした。
恵原義盛の『奄美のケンモン』に収録されている「ケンモンの足跡の写真」を見て、即座に『百太郎』を思い出したものです。
Re: No title
>>水引 さん
実は妖精探しの他にも、幽体離脱、守護霊との交信なんかも劇中の解説を頼りにやってました。
特に幽体離脱は結構長い間トライしてたのですが、みごと全敗。今日まで金縛りにさえかかったことないというセンスのなさです。

ただ不思議なのは自分は子供のころ、かなり怖がりだったのですが、
妖精探し、幽体離脱、守護霊との交信については全く怖かった記憶がありません。
好奇心が恐怖心に勝ってたってことでしょうか。
情報の真偽はさておき、あれを初めて読んだときは本当にワクワクしました。

コメントありがとうございました!

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