加藤一『恐怖箱 仏法僧』

 

 つくね乱蔵, 橘百花, 雨宮淳司著, 加藤一監修『恐怖箱 仏法僧』竹書房 2015 竹書房文庫 HO-244

 竹書房文庫、実話怪談看板シリーズの一冊。三人の著者には目次を見なくてもだいたい見当がつくほど、それぞれ特色がある。単に何かを見たという話とは違って、因縁やら呪いやら背景に暗い広がりを感じさせるエピソードが多かった。実話怪談24編収録。

「猫を燃やす」体験者は困り果てていた。奥さんの可愛がっている子猫を殺してしまったのだ。急いで死体を処理する必要があったが適当な場所が見つからない。家の周囲をうろついているうちに、やがて最良の隠し場所を見つけた。それは近所の神社のどんど焼きの積み藁の中。子猫ぐらい跡形もなく焼き尽くしてくれるだろうと考えたのだ。しかし話はこれで終わらない。体験者は子猫一匹が祟ったとは思われないレベルの、苛烈な霊障に見舞われることになる。
 第一話目のエピソード。神威に触れた罰当たりな男の話である。奥さんの愛猫を怒りに任せて殺し、神社に死体を遺棄し、何事もなかったかのように過ごそうとする体験者の「もともと何かが足りてない感」が怖い。本書にはこの話をはじめ、犬、猫(ペット)にまつわる怪談が複数収録されている。

「マーマ」ペットにまつわる怪談の中で一番印象に残ったのがこれ。散歩の途中、愛犬の「ルナ」が何かを飲み込んでしまう。一見すると小石だが、それにしてはもっと軽い何か。少し気がかりだったが、異常は認められない。ところがすっかり忘れていた頃に異変が始まった。ルナの腹部が小さく腫れてきたのだ。
 珍しい犬と人面疽の話。動物の顔や模様が人の顔に見える話はたまにあるけど、このパターンは珍しい。しかもこの話はペットの症状の描写にとどまらず、それを看ている飼い主(体験者)の心情が随所に挿入されているから、動物好きな人にはかなりキツイと思う。気味悪く変わっていく愛犬、それを「段々とルナを見るのが嫌になってきた」と感じる自分自身……、怖いというより二重三重の不快感、嫌悪感を感じた。

「喰らいあう」隣家は両親と息子、娘の四人暮らしだった。大学を出て社会人になったはずの息子は、長年にわたって自室に引きこもっている。ある夜、体験者はたまたま外出する隣家の息子を見かけた。よく見ると彼の背後には死んだはずの彼の祖母の姿がある。息子自身はそれに気付いてない様子だ。その夜から体験者は度々彼の姿を見かけるようになった。行き先が気になったが、後をつけるわけにもいかない。後日その謎はふとしたきっかけから、あっさり解明されることになる。彼が夜な夜な通っていたのは近所の森だった。体験者は一本の樹木の幹に打ち付けられた藁人形を発見する。そしてその藁人形には彼の母親の名が記されていた。
 あとワンピース嵌まればクリスティの『蒼ざめた馬』(“The Pale Horse”)になりそうな、とある家族と呪いの話。実話怪談としてはわりと珍しく起承転結がしっかりあるので、好き嫌いが分かれるエピソードだと思う。漫然と、かつ興味津々に、事態の推移を傍観する体験者が面白い。娘すげー。

「かまぼこ」体験者は彼女の実家を訪れることになった。将来を真剣に考える時期になったのだ。高校の頃からの付き合いの彼女には奇妙な偏食があった。それは「かまぼこ」が嫌いなこと。理由はわからないが、見るのも嫌なくらいかまぼこを嫌っていた。彼女の実家は予想以上の素封家で、彼を暖かく迎えてくれた。婿を取る気満々なようだ。日が暮れて座敷に行くと、彼女の両親が悲壮な話をはじめた。「我が家の特別な「事情」を話す。その前にこれを食べるが、悪くすればこの場で頓死するかもしれん……」卓上には大皿に盛られた紅白のかまぼこ。
 普通のかまぼこ嫌いから始まって、全く先の見えない展開をするエピソード。面白かった。彼女のかまぼこ嫌いの理由もしっかり明かされるが、それはコミカルで凄惨な、とんでもないものだった。人の不幸を笑うなかれ。

 この他にも奇怪な宗教団体が暗躍する「靈ガ云フ」、不憫な母子のゴーストが登場する「灯台もと暗し」などが印象に残った。読み終わってみれば、ゾッとするような怖い話っていうより、なんだこれ??って話が多かったと思う。



『恐怖箱 仏法僧』
 竹書房 2015 竹書房文庫 HO-244
 監修:加藤一
 著者:つくね乱蔵/橘百花/雨宮淳司

 ISBN-13:978-4-8019-0352-4
 ISBN-10:4-8019-0352-5


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