古賀新一『白衣のドラキュラ』



 古賀新一『白衣のドラキュラ』ひばり書房 1986 ヒット・コミックス 44 オカルトシリーズ 5

「僕にとってあなたは突然すぎたんだ。人同士ってこんなもんなんだよな」……これは戦闘中にチャクラが開いたアムロとララァの感応の一節だが、何から何まで突然すぎるのがこの『白衣のドラキュラ』。みごとに1ミリ先の展開も読めない、雑にいえば行き当たりばったりこの上ない作品である。著者の作品には往々にして同様の傾向が見られるのだが、だからといって面白くないとは限らない。この作品も対象とする読者を怯えさせるには充分な性能を有している。

 森の中らしき白い空間で、ノスフェラトゥタイプの吸血鬼に襲われる少女。彼女は近くの病院の入院患者だった。主人公の「綾子」も同じ病院の入院患者で、被害者「由紀子」とは同室の親しい間柄。由紀子は病院に運び込まれたあと、老婆のように衰弱して死亡してしまう。その夜、綾子は看護師が由紀子の死体をこっそり運び出すのを目撃するが、見つかって口止めをされる。この病院にはなにか怖ろしい秘密があるらしい。それをみんなして隠蔽しているのだ。頼りになるのは病院のすぐそばに住んでいる医師、「ユミ先生」だけ……。

 見知らぬ医療施設、白い壁と廊下がどこまでも続いている。両親は見当たらない、唯一の友人は死亡。頼るべき医師、看護師はどーみても怪しい。少女にはマンガ的な能力はなにひとつ備わってない。何者かに襲われたとしても、対抗する手段がないのだ。廊下の曲がり角の向こう、暗いドアの向こう側になにが待ち構えているのかわからない。こんな状況に、伏線もなく、お約束も通用しそうにない、行き当たりばったりの展開がよく馴染んでいて、吸血鬼ものというより脆弱な少女が病院内をひたすら逃げまどうシチュエーションホラーといった趣き。当然、主人公の少女に感情移入するほど作品は面白くなる。意図されてのことかどうかはわからないが、少女の知りえない情報がほとんど描かれないのも効果的だと思う。
 誰にでもオススメできる作品ではない。それでも自分はこの作品が好きだ。ちっこいビオランテみたいな怪物が出てきて以降の、ふっ切れたようなハイテンションさには変な爽快感があるし、なにより主人公の無個性なほどの天真爛漫さが素晴らしい。

 本書にはもう一編、『白衣のドラキュラ』とは随分異なる繊細な絵柄の短編、『黒髪の呪い』が収録されている。スタンダードな髪の毛の怪談かと思いきや、片足が飛び回りひたすら主人公を怯えさせるという、シンプルだが驚異的なシーンが頻出する。タイトルに偽りありの面白い作品だった。



『白衣のドラキュラ』
 ひばり書房 1986 ヒット・コミックス 44 オカルトシリーズ 5
 著者:古賀新一

 収録作品
 『白衣のドラキュラ』
 『黒髪の呪い』

 ISBN-13:978-4-8280-1044-1
 ISBN-10:4-8280-1044-0


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コメント

おお!古賀新一
古賀新一!
スタートはガチのオカルト漫画だったのに、途中からハチャメチャギャグ漫画に変態した『エコエコアザラク』の人、というのが一般認識でしょうが、本当に息長く幅広く、縦にも横にも全方位展開で執筆を続けておりますね。

水木しげるや日野日出夫の作品が現在では「アート」方面から評価されているのに対し、古賀新一やつのだじろうはその「学級文庫指数の高さ」故か、いまだ「一山いくら」っぽい扱いですね。

しかし高度経済成長期のチビッ子達の学級文庫で、全国展開で禍々しさを撒き散らしたのが、古賀新一やつのだじろう。
そしてオカルト御大中岡俊哉の心霊写真シリーズでしたよね。
(晩年の中岡さんにお会いして運勢占いをしてもらったことがあるのですが、その答えが「あんたは大器晩成の早死にだ!」というものでした。さすが御大。攻めてきます)

古賀新一は「いもむし」「妖虫」というムシムシシリーズが好きです。
フランク・ヘネンロッターの『バスケットケース』を30年フライングした『いもむし』は古賀の天才の証。
ラストは椅子から転げ落ちて爆笑しましたね。

それでは次回更新を楽しみにしております。


Re: おお!古賀新一
>>水引さん
ムシムシシリーズいいですよね。バスケットケースも。自分も大好きです。

自分の小学生の頃を思い出してみると、
とにかく怖かったのがつのだじろうでした。トイレに行けなくなる系の怖さ。
古賀新一は一番いかがわしい感じで、なぜ女子はこれが好きなんだろう??と不思議に思ってました。
考えてみれば、つのだは実話怪談として、古賀は占いおまじないetcなどの要素で、
自分たちの生活と地続きのものとして捉えて怖がってたように思います。

水木や日野と比べて、所謂アート的な評価が低く感じられるのは、
フェイクドキュメンタリー系のホラー映画の評価が低いのに似てますよね。
とにかく面白い(怖い)んですけどね。

自分は自称霊能者のおばさんから、
突然「前世は馬に乗ってた! 」って言われたことがあります。
前後の脈絡が全く無かったので、なんだそりゃって感じでした。

コメントありがとうございました!

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