美内すずえ『白い影法師』

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 美内すずえ『白い影法師』(『白い影法師』講談社 1976 講談社コミックスミミ 所収)

 長きにわたって女子小学生を恐怖のどん底に叩き込んできた傑作オカルト少女マンガ。今の小学生がもともと誰のものかも分からないような、くたくたになったコミック本を回し読みしてるかどうかは分からないけど(してないならちょっと寂しい)、現場に投入されさえすれば今でも間違いなく第一線で通用する作品だ。この本のもとの持ち主である妹(←結構いい歳)によると、未だに「なんとなく気持ち悪いからあんまり触りたくない」らしい。ついでに「授業中にこの本を読んでた○○子が突然悲鳴をあげた」という、噓かほんとか分からないような話も聞かせてくれた。本当だとすると、もちろんあのページを開いて叫んだのだろう。

 雑誌『週刊少年マガジン』誌上に『うしろの百太郎』の連載がスタートしたのが1973年、映画『エクソシスト』(1973)の日本公開が1974年、当時は空前のオカルトブームであった。本作はそんな盛り上がりの真っただなか、1975年(昭和50年)に雑誌『月刊 ミミ (mimi)』の創刊号に発表されている(雑誌『花とゆめ』に著者の代表作『ガラスの仮面』の連載が開始される前年だ)。扉を含めて60ページ強の作品だが、そのなかに霊感少女、コックリさん、心霊写真、地縛霊、霊能者などのオカルト的な要素が、これでもかってくらいに詰め込まれている。

 改めて読み返してみると、この作品には古い作品にありがちな展開のまだるっこさがまったくない。驚くほどのテンポのよさで、上記のような盛り沢山なオカルト的要素を手際よく処理している。主人公のニュートラルさ、キャラ立ちの弱さも、欠点ではなく、むしろ作品の普遍性に寄与しているように思う。そして特筆すべきはめくりの演出の効果的な用い方である。シンプルながらお手本のようなめくりの演出が随所に用いられていて、後世に語り継がれるほどの効果を生んでいる。妹のクラスメートが叫んだというのも、あながち噓ではなさそうだ。

 幽霊の造形も見逃せないポイントだろう。例えばつのだじろうの幽霊が、怒りや怨念などの激情をあらわにした強い表現で描写されるのに対して、本作の幽霊は薄ら笑いを浮かべ、惚けたような焦点の合わない目をしている。このふわっとした柔らかさ、自然さが本当に薄気味悪い。絶妙の外し方である。そして後に『ガラスの仮面』の連載を通して洗練されていく「手」の描写の上手さも、本作ですでに発揮されていて、その這うような表情が素晴らしい。

 ストーリーはごくオーソドックスで、教室のなかに不自然に置かれたままの主のいない机、そこに座った者が怪奇現象に見舞われる。どうやら何らかの因縁のある席らしい。転校生の主人公は霊感少女などの助けを借りて、その空席の秘密を探りはじめるというもの。マンガに限らず、本作以前にも、また以降にも、ごく似たシチュエーションを用いた作品はいくつもある。しかし上記のような様々な点で、この作品は群を抜いている。もちろん後のオカルト系の少女マンガに与えた影響も少なくはないと思う。
 このジャンルのマンガに興味があって、代表的な作品を一通り読みたいという人には強くお勧めできる作品、しかし小さい妹やお子さんがいる家庭では、うっかり目に触れさせないよう保管場所には充分に留意する必要がある。


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Posted byserpent sea

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