横溝正史『花園の悪魔』

 

 横溝正史『花園の悪魔』(『』角川書店 1976 角川文庫 金田一耕助ファイル11 所収)

 主な舞台は東京近郊のS温泉にある「花乃屋旅館」と、その旅館が経営する大規模な花壇「花乃屋花壇」、そして「京王百草園」から多摩聖蹟へ抜ける山中である。昭和2X年4月の朝、花乃屋花壇を見回り中の園丁が異様なものを発見した。チューリップの花壇の真ん中に全裸の女があお向けに寝ているのだ。声をかけてみたが身動きひとつしない。激しく揺さぶってみると、首にかかった髪の毛の下から紫色のヒモの跡があらわれた。殺人事件である。被害者はヌードモデルの「南条アケミ」。絞殺された後、犯されていることが判明した。犯人と目された人物「山崎欣之助」の行方は杳として知れない。事件発生から一月あまり経ったころ、「金田一耕助」が花乃屋旅館にふらりと現れた。

 この作品には推理小説としての面白さや、興味深い死体の状況のほかにも、当時の生き生きとした風俗習慣をかいま見れるという楽しさがある。今回の事件の舞台となった「花乃屋旅館」は「はじめからアベック向きに設計」されており、都心から電車で50分、休憩もOKとのこと。今でいうラブホみたいなものかと思いきや、家族連れの客もあり、「花乃屋花壇」なんて大きな施設が併設されている。かなりオープンな雰囲気で、ラブホや連れ込みとは少々趣きが異なっているようだ。この作品が雑誌『オール讀物』に掲載されたのは今から60年以上も前、初代ゴジラと同じ1954年である。文章はそんな昔の作品とは思えないほど読みやすい。金田一と等々力警部が連れ立って出かけた「京王百草園」は今も昔もちょっとしたお出かけスポットで、二つの現場が「花」で繋がってるのが気が利いている。二つの現場に遺棄された二体の死体の状況も、一方は花壇に遺棄された美しい死体、もう一方は洞窟にうち棄てられた腐敗する死体と、見事に好対照である。

 今回金田一は最後の方まで全然出てこないが、帽子の血痕に着目し、論理的に犯人を絞っていく手腕は相変わらずの鮮やかさ。言われてみればそりゃそうだって感じだけど、言われなければ絶対に気付かない自信がある。特殊な業態の旅館、ヌードモデル、死姦された全裸の死体などなど、妖しげで扇情的なモチーフが詰め込まれた楽しい作品だった。
 この作品が収録されている短編集『首』は、以前は『花園の悪魔』というタイトルで出ていた。解説も付いているし、カバーのイラストもかっこいいので、手に入るならそっちの方がおすすめ。



『首』(旧題『花園の悪魔』)
 角川書店 1976 角川文庫 金田一耕助ファイル11
 著者:横溝正史

 収録作品
 「生ける死仮面
 「花園の悪魔
 「蝋美人」
 「首」

 ISBN-13:978-4-0413-0443-3
 ISBN-10:4-0413-0443-1


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