鈴堂雲雀, 戸神重明, 鳥飼誠『恐怖箱 空蝉』

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 鈴堂雲雀, 戸神重明, 鳥飼誠共著, 加藤一監修『恐怖箱 空蝉』竹書房 2012 竹書房文庫

 以前読んだ『恐怖箱 赤蜻蛉』がこのレーベルとしてはやや変化球気味だったのに対して、本書はまさに「正調恐怖箱」って感じで、幽霊と呪いがたっぷり。全24話という収録話数からも分かるように、長めの話が多くて読み応えがあった。ただし人体が激しく損壊したり、とんでもない姿の幽霊が出たりはしないので、そういうの好きな人にはちょっともの足りないかもしれない。傾向としては後ろの方にいくほど、こってりした話が配されているような気がする。

「人命救助」冬の朝、鮒釣りに出た体験者が、川の流れのなかに女の姿を見る。不思議なもので水と女を扱った怪談には、なぜかイメージが明晰なものが多い。このエピソードもその例に漏れず、川面の薄青さと赤いセーターのコントラストが印象的。体験者が心ある人なだけに理不尽さを感じるが、引っぱられるとか、呼ばれるっていうのは、こういうことなのかなとも思う。

「マシなほう」体験者は会社員の男性。残業中の出来事を書いた2ページほどの小品だ。知らぬまにコーヒーの入った紙コップの縁に、口紅がべったりとついている。気味が悪いから捨てようとすると、今度は口紅のついていた部分が、かじりとられたようになくなっている。それを先輩に告げたところ……。収録作のなかでは特別に少々生臭い、気味の悪い話。

「祖父の葬儀」通夜の夜、祖父の遺体が動きはじめる。確かに心臓は止まっているし、体も冷えきっている。ゾンビ、アンデッドである。日本風にいうなら死人憑(詳しくはwiki等参照)ってところか。フィクションに限らず、民話や伝説のなかにも様々な形でその姿を現わすアンデッド。しかし現代の実話怪談においてはどうだろう。かなり珍しいんじゃないかと思う。そもそも火葬が発達した日本では、土葬をベースに発想されたアンデッドは活躍し辛いのだ。とは言うものの、実際こんな事態に遭遇すれば、とても体験者家族のような対応はできそうにない。

「似」神様憑きと称される悪質な霊能者の女性と、神主から退魔の鏡を借り受けた体験者の父親が繰り広げる、ご近所霊能力バトル。両者のエキセントリックな性格のおかげで、まったく怖くはないが、一体どうなるんだこれ? って好奇心から一気に読み通してしまう。

「黒鳥居」信頼している友人や同僚が、実は内心では自分を激しく嫌っていたとすれば、それだけで充分に怖ろしい出来事だ。このエピソードではそれに呪いが絡むから、さらにタチが悪い。しかも対象となった体験者はおろか、その関係者にまで災いを及ぼすような強烈な呪いだ。唯一の救い、というかこのエピソードの特異な点は、体験者にその呪いが形になって「見える」ところ。そこがとてもおもしろかった。鳥居というと朱のイメージが強いけれど、検索してみると、全国各地に黒い鳥居が点在していることが分かる。体験者の見たのはどの鳥居だったのだろうか。

 という感じで、怖さはほどほどながら、粒の揃った話が並んでいる。上記のほかに、人形の話や双子にまつわるかなり重めの話もあって、冒頭で書いた通り読み応えがあった。ただ少し気になったんだけど、作品によっては効果や意味のあまり感じられない改行が多すぎるように思う。また本書に限ったことではないけれど、実話怪談では往々にして体験者の名字だけが記されることが多く、なかにはしばらく読み進めるまで体験者の性別がまったく分からない作品がある。性別は意外と重要な要素なので多少の配慮が欲しい。

 それから恒例の「稲川淳二・怪談朗読CD全員プレゼント」の締切が、2012年12月31日(当日消印有効)と迫っている。買ったけどまだ送ってないって人は要注意です。


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Posted byserpent sea

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