渡辺正和『「超」怖い話 鬼市』

 

 渡辺正和『「超」怖い話 鬼市』竹書房 2013 竹書房文庫 HO-163

 凄みのある表紙のイラストに負けず劣らず、中身も充実した一冊だった。目立った特徴としては、各エピソードが関連のあるモチーフやシチュエーションごとにゆるくまとめられている点だ。この構成は似た傾向の話が連続しても退屈させないという著者の自信の表われだろう。あと器物の怪談が多いのも特徴。全27編収録。印象的な話が多かったが、気になったエピソードを簡単に紹介します↓

「廃棄物」「釣行夜話 其之壱〜其之陸」「ケイムラ」
 これ全部「釣り」にまつわる話。巻頭からずらっと並んでいる。自分は釣り自体にはさっぱり興味がないのだが、釣りの話を聞くのは楽しいし、魚介類と水の怪談は大好物。なのでこの八つのエピーソドはとても楽しむことができた。
「廃棄物」はゴミ捨て場で拾ったクーラーボックスにまつわる話だが、具体的に幽霊が出るとかそういう類いの話ではない。クーラーボックスを用いることによって生じる気味の悪い(嫌な)出来事と、それにどうにか対処しようとする体験者の悪あがきがメイン。なので怖っ! って感じの話ではないが、クーラーボックスのえも言われぬ禍々しさが伝わってきて不気味だった。捨てられる以前のクーラーボックスの用途をあれこれ想像させられてしまう。
「釣行夜話」の6編は長さもまちまちで、似たようなシチュエーションながら内容はバラエティに富んでいる。一番印象に残ったのは「其之陸」、水路でタナゴを釣ってた体験者が水中で切れたと思しき釣り糸を引き上げようとすると……って話。何かを釣り上げたわけでも、見たわけでもないのだが、類例のない得体の知れない現象が生じている。
「ケイムラ」では磯でイカを釣ってた体験者が、幽霊だかなんだかわからないものに遭遇する。その結果大きな釣果を得ることになるのだが、話の焦点は餌木(疑似餌)。そこが変わってる。「ケイムラ」という聞きなれない用語は餌木に塗る「蛍光紫」の略とのこと。しかしこの体験者、釣ったイカ食べたのか。見上げた食欲だ。釣りにまつわる怪談といえば大陸書房の本に『海釣り奇談』という好著があるので、そのうち感想を書こうと思う。

「鍋蓋」上で触れた3編「クーラーボックス」「釣り糸」「餌木」に続いて、このエピソードもまた器物にまつわる怪談である。使わない鍋には必ず番(つがい)の蓋を閉じておかなければならない。体験者の家では、そうやって皆過ごしてきたし、これからもそうなのである。もしも蓋を閉じないでおくと……。
「廃棄物」と似た感じの話だが、こっちにはもっと深くて暗い「一族の業」みたいなのが感じられる。怪異の背景は一切語られないので、もどかしいったらない。

「プレイ」ペットショップに勤務する体験者の女性が深夜、鎖を引きずる音を聞く。アパートの二階の一室である。窓のすぐ下の小道で誰かが犬の散歩でもしているのだろう。音はしつこく鳴り続いたが、いつしか彼女は眠りに落ちいてた。数日後、眠ろうとしているとまたしても鎖の音が聞こえてきた。もう我慢できない。飛び起きてカーテンを思いきり開けた彼女は、そこにとんでもないものを目にする。
 幽霊なのか変質者なのか……いや、幽霊なんだろうけど。腐ったりとか形が崩れてるわけじゃないが、非常に不快なタイプの幽霊だ。グーで殴りたい。ペツトショップからオチまで、なんとなく関連があるような気がしないでもない。

「セラピー人形」「私の人形は良い人形」
 人形怪談2編。「セラピー人形」は介護老人福祉施設に紛れ込んだ人形にまつわる話。人のように動き、言葉を発し、施設に不幸を呼ぶチャッキー系の人形が登場する。
「私の人形は良い人形」は収録された中ではやや長めの、悪意に満ちたエピソードである。語り手は小学校の養護教諭。彼女には高校時代からの親友がいて、家族ぐるみの付き合いを続けてきた。親友「小夜子」には二人の子供がいるのだが、下の男の子「翔」が生まれつき左足に障害を持っており、それを娘「希美」のせいだと思い込んでいるらしい。翔が生まれた当時、希美はどこへ行くにも人形を抱いていた。弟が産まれる直前、彼女が母親の検診について行ったとき、知らない女から渡されたものだという。ある日、幼稚園から帰ると、母親が彼女の頬をいきなり張り倒し、こう罵ったのだそうだ。「翔の足はアンタのせい! 全部、アンタのせいよ! 」……あの人形は捨てられてしまっていた。母親は人形に何を見たのだろうか。
 強烈な悪意が込められた人形と、それに侵食される家族(主に母親)。弟の障害と人形の因果関係は不明のままだが、怪異の全貌はおよそ把握できる程度に書き込まれている。とても読み応えのあるエピソードで、意外なことに読後感が良かった。器物に人の念が籠もった話としては他に「デッドスペース」があって、これも好編。

「カスコ」体験者が中学生時代の出来事である。優しく美しく勉強もできた友達の「和子」が、ある日を境に苛烈ないじめのターゲットとなり、やがて交通事故で死亡してしまう。以来、和子をいじめていた生徒の様子がおかしくなり、次のいじめのターゲツトとなった。体験者は沈み込んだ生徒の背後に朧げな和子の姿を見る。
 重苦しいエピソード。大半は和子に対するいじめの描写で占められている。類話のありそうな話だが、「見える」体験者の存在が異彩を放っており、その「見える」描写にもリアリティが感じられる。

 自分はわりと本を積まない方なんだけど、それでも買うペースの方が早いことが多いから、未読の本がじわじわと増えていく。とくに刊行ペースが早く、タイトルもよく似てる竹書房の本にはその傾向が強い。実はこの本も買ったまま読んだ気になっていて、今回が初読。最近とみに管理できなくなってきてるなーなんて反省しつつも、ちょっと得した気分になるから困ったものだ。



『「超」怖い話 鬼市』
 竹書房 2013 竹書房文庫 HO-163
 著者:渡辺正和

 ISBN-13:978-4-8124-9426-4
 ISBN-10:4-8124-9426-5


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