さがみゆき『血に炎える死美人』

 さがみゆき『血に炎える死美人』ひばり書房 1986 ヒット・コミックス 132 怪奇ロマンシリーズ

「純子」と「まり」の仲良し姉妹がTVの恐怖劇場(ひばり書房提供)に悲鳴をあげていると、兄が帰宅した。美しい女性を連れている。映画スターだろうか……。姉妹の兄は怪奇作家だ。小説がドラマ化されたりして、最近人気が出てきている。そんな兄へのファンレターの中に奇妙なものがあった。血で染め上げられたような真っ赤な着物が送られてきたのだ。同封されていた手紙には、着物にまつわる奇怪な伝説が綴られていた。
 ……明治のころ、富士の風穴のすぐそばの集落に「鈴子」という美しい娘がいた。彼女は自らの美貌に病的に執着し、美貌を維持するためと称して、蛇やムカデ、昆虫を好んで食べた。それを知っているのは彼女が嫁いだ先、村で一番醜く、一番金持ちの「源吉」ただ一人だった。鈴子はやがて娘をもうけたが、「かおる」と名付けられた娘は他家に預けられて育った。鈴子が娘を抱こうとさえしなかったからだ。それでもかおるは美しく成長し、年老いた父源吉が身罷ると母のもとを訪ねた。驚くべきことに母鈴子は未だに若さ、美しさを保ち続けていた。母の住居で夜を迎えたかおるは、母の怖ろしい秘密を知ってしまう。鈴子の美貌の秘訣は度を越した悪食だけではなかったのである。暗い風穴の中で殺害した人の血液を自らの花嫁衣装に吸わせ、それを身にまとうことで若さを保っていたのだ。
 この手紙の真偽を確かめるべく、純子は兄とその連れの女とともに富士の集落へ向かう。

 女性の美と若さに対する妄執を描いた和洋折衷ホラー。血の伯爵夫人エリザベート・バートリの伝説を、閉塞感たっぷりの過去と現在の日本の集落を舞台に展開する意欲作である。無理やりカテゴライズするなら吸血鬼ものだけど、雰囲気は横溝正史の金田一シリーズとかあのあたり。著者の作品らしく、蛇の串焼き(全長50cmくらい)を「ガブ!」って頭から食べる場面(p54)をはじめ、ゆるくてファニーなシーンも多い。なかでも一押しのシーンはp126の下段2コマ。「何百年もたっているのにこの布はうつくしすぎるわ……」「何百年もたっているのにこの着物は新しすぎるわ……」と純子が繰り返しつぶやくシーンだ。上のコマでは沈黙思考する表情、すぐ下のコマでは両頬に手を当てて驚いたように目を見張っている(ムンクの『叫び』のポーズ)。メリハリが半端ない。面白いだけじゃなくて、著者の直感的な表現の手腕が如実に発揮されている。
 トイレに行きたい、でも怖い、が繰り返されるのも、読者層を強く意識したサービス精神の表れだろう。あと永井豪のオモライくんがチラッと登場するコマがある。ファンだったのかな。

 このあたりの作品を読むと、ストーリーといいスケール感といい、ゆるめの2時間サスペンスドラマの原作にぴったりだと思うことが多い。とくにこの作品はコマ割りから何から、それらしい雰囲気がビンビンする。今更どうにかなるとも思えないが、こうしたポテンシャルを持つ作品が放置されたままになっているのは残念なことだと思う。ほんと惜しい。



『血に炎える死美人』(旧題:ミイラ死美人)
 ひばり書房 1986 ヒット・コミックス 132 怪奇ロマンシリーズ
 著者:さがみゆき

 ISBN-13:978-4-8280-1132-5
 ISBN-10:4-8280-1132-3


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コメント

No title
たまたまネットを覗いていて「いや~、自分と読書傾向が似てる人がいるなぁ」と思って以来愛読しております。
「血の伯爵夫人」バートリ・エルベージェト(ハンガリーは日本同様姓→名表記なので私はこう書きます)の「血の伝説」に話が及んでいたので嬉しくなりました。
バートリ・エルベージェトの「血の伝説」は、現在のハンガリー史では「反ハプスブルグ政策を打ち出した伯爵夫人に対するハプスブルグ側のプロバガンダ的デマゴーグ」である可能性が高いという説が有力になっていますね。
そもそも「血の沐浴」は、イニシエのローマ時代、既にクレオパトラにその伝説がありますから古い伝説の一種ですね。
ボードレールにも「古代ローマの血の沐浴」を謳った詩が『悪の華』の中にあります。
バートリ・エルジェーベトに関しては、ドイツのザッハー・マゾッホ研究者ミハエル・ファーリンに『恐怖のヒロイン』という詳細を極めた研究書があるのですが、残念ながら邦訳は予定すらないようです。
(そのお蔭でドイツ語の原書を辞書を引き引き読むことに、嗚呼)
澁澤龍彦や種村季弘も、エルジェーベトの城に「機械仕掛けの鉄の処女」があったと書いていますが、これはフランスの女流詩人ヴァランティーヌ・ペンローズの本からの引用です。
2人とも同一の種本を使っているのですね。
もっとも、エルジェーベトと「鉄の処女」を最初に結びつけたのがザッハー・マゾッホの短編小説「永遠の青春」だと思います。
( だからファーリンがエルジェーベトの研究書まで書いてしまったのでしょう)
そうそう、種村季弘の『吸血鬼幻想』の「バートリ・エルジェベト」の章に「彼女の伝記作家クロード・ヴァラン」という名が出てくるのですね。
このクロード・ヴァラン。
ファーリンの断簡零墨まで網羅した彼女に関する書誌(これこそ正にゲルマン的完全主義の結実です)にも載っていない謎の人でした。
実は種村季弘の死後、息子さんの好意で湯河原の種村邸の書庫を覗かせてもらったことがあるのですが、そこで見つけました!クロード・ヴァラン。
なんとフランスのポルノ雑誌の短い記事からの引用だったのです。
今回はオヤジギャグも無い昔話が多くてすみません。
老人の昔話でした。
『ウルトラセブン』は再放送で見てるけど、『帰ってきたウルトラマン』と『仮面ライダー』は第一話から本放送で見ている世代ですから老人です。
『帰ってきた~』と『仮面ライダー』は、確か第一話のオンエアが一日違いだった記憶があります。
ガキにとっては盆とクリスマスと正月とナマハゲが一度に来たみたいな夢の二日間でした。




Re: No title
>>水引さん

コメントありがとうございます!!

自分は目についた怪奇っぽい本を乱読しているだけなので
ジャンルから一歩でも出ると正直「やや本が好きな中学生」のレベルで、これは読んどけよーって本も読んでないことが多いです。
なので日常生活で読書関係の会話ってほぼしたことがないんですよね。せいぜい古本屋の人と話すくらいで。

種村邸の書庫、羨ましいです。以前著名人の本棚や書斎を見せる本でチラッと見たことがあるのですが、
蔵書もさることながら、あちこちに美術品の数々が写り込んでいました。
氏の美術関連の功績からして、いったいどんなお宝が眠っているのやらです。

>>クロード・ヴァラン
全然記憶になかったので、チェックしてみました。めっちゃその道の権威っぽく、さりげなく引用されてますね。
あれがポルノ雑誌からの引用とは。出版当時(今でもですが)、どのくらいの人が気付いてたのか分かりませんが、
知ってた人はさぞかし楽しかったことと思います。
それにしても『吸血鬼幻想』『世界悪女物語』、ほんとに見てきたように書かれてますよね。
これが冤罪だとしたら史上稀に見るレベルの冤罪ですが、死に様を見る限りどうも怪しい。幽閉って。
発覚当時孤立してたようだし、美人だったこともマイナスに働いてたような気がします。
No title
御謙遜を!
あなたの記述で教えられることも凄く多いのです。

なお種村季弘が参照した雑誌はフランスのPLEXUS誌です。
先の文章で「ポルノ雑誌」と書きましたが、まぁエロスやシュルレアリスムを主軸に据えたサブカル雑誌という位置づけが最適でしょうね。
フランスには他にBIZARREやCRAPOUILLOTといった、多分に澁澤的寺山的雑誌がありまして、種村季弘さんからも生前にそれらの雑誌の重要性を諭されたこともあったりします。

ブルトンらが出していたシュルレアリスム雑誌も、私は玩具的で好きですが、見る人によっては実物の余りのチャチさに怒る人もいるかも知れませんね。

なおご子息によれば、子供の頃ウルトラセブンのソフビ人形が欲しくておねだりしたところ、「オヤジはウルトラセブンがよく分かってなくて」イカルス星人のソフビを間違えて買ってきてしまったそうです。

でもイカルス星人を買って帰る種村季弘、私は好きですねぇ。
種村さんは凄く家族思いなところがあって、私が初めてお会いした時の最初の会話が「モーニング娘。って良いよね!」というものでした。
その時、お孫さんにモーニング娘。のCDを買ったばかりだったんですね。
考えてみれば畏まって文学の話をしたことも余りありません。
お会いするときは、ほぼ互いに酔っぱらってましたし。

ただ一度だけ翻訳の姿勢を巡って厳しく怒られたことがありますね。
言葉に関しては本当に真摯かつ厳格な方でした。
それ以外では「いいいのか?」と思うくらい鷹揚な人でした。
澁澤龍彦らの話もいろいろ聞かされましたが、これらは全部裏が取れない話ばかりなのでオフレコですね。

Re: No title
>>水引さん
コメントありがとうございます!

モー娘と種村季弘とは強烈にミスマッチですね。最初の会話としてはものすごいインパクトですね。
自分にとっては吸血鬼やオカルトと
シュルレアリスム(ゾンネンシュターン、ベルメールなどなど)を紹介してくれる偉い人!
ってイメージなので、イカルス星人のお話などは新鮮で面白いです。
考えてみればイカルスやセブンのデザインをされた人って、
本職はシュルレアリスム的な作品を残した画家、彫刻家でしたので、モー娘よりは相性がいいような気もします。

>>PLEXUS誌
この雑誌は見たことがないのですが、
ジョン・ウィリーの写真が載ってるBIZARREが何冊か手元にあるので
なるほど、納得です。あんな感じの(サブカルっぽい?)雑誌だったのですね。
いかにも鉄の処女が載ってそうな。

それにしても今回も貴重なお話、ありがとうございました!

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