深澤夜『「超」怖い話 鬼胎』

 

 深澤夜『「超」怖い話 鬼胎』竹書房 2014 竹書房文庫 HO-215

「き‐たい【鬼胎】
 1. おそれ。心配すること。「―を抱く」
 2. 子宮内の胎児をおおう胎盤絨毛膜の異常増殖によって起る病。子宮内容は小嚢状の塊となって、葡萄状となり、胎児は全くその姿を消す。奇胎。胞状鬼胎。葡萄状鬼胎。」

 不気味、奇妙、奇怪、少々風変わりな実話怪談集。長めの話、18話が収録されている。特徴的なのは幽霊がほとんど出てこないところで、ついでにグロ描写もない。ヘビーな幽霊に頼らない、実話怪談の様々な側面が提示されている。この手の本をよく読む人には分かってもらえると思うが、実話怪談ってわりとマンネリとインフレに陥りやすいのだ。
 本書には被害の惨状だけが書かれて、肝心の原因にはまるで触れない話がある。何やらSFっぽい話もあるし、突飛すぎで分類のできそうにない話もある。記憶の底を掘り返してみれば、似たような要素を備えた先行事例が無いわけではないが、どれも新鮮で興味深いエピソードばかりだった。特に印象に残ったエピソードついて少々↓

「本数」人の顔面に数字が見えるタクシーの運転手「杉本さん」の話。普段は数字しか見えない彼が、あるとき女性の乗客の顔に不思議な文字列を見る。ラノベのキャラのような杉本さんの微妙な特殊能力が面白い。ラストの僧侶の登場でフィクションぽさが増すが、反面、怪談としてのフレームは強固になっているように思う。本書にはタクシーの話が3編収録されていて、うち2編はこの「杉本さん」の話。

「峠のバス停」バスで寝過ごした赤ん坊連れの母親が辺鄙な峠の停留所に降り立った。待合所の中で次のバスを待っていると、天気が崩れはじめた。雷雨である。しばらくすると男女三人連れが待合所に駆け込んできた。彼らは近くの廃病院で何かの撮影をしていたらしい。やがて三人連れの紅一点、モデルの「メルル」と呼ばれる女が不吉なことを言いはじめた。「……さっきから、変な感じがしてるんです」
 大人四人+赤ん坊による密室劇。怪異らしい怪異が生じるまでに随分ページを割いているが、その分雰囲気は抜群。雷雨の中の待合室の、心細い母親の心境が繊細に描き出されている。正調実話怪談って感じのエピソードで、モデルの女「メルル」のヒステリーっぷりも怖い。

「空と海の間」とある海水浴場に遊びに行った高校生のグループがとんでもない出来事に遭遇する。海水浴シーズンを外したとはいえ、その海岸には彼らのほかには誰もいなかった。ビーチバレーをはじめたが、対戦相手の三人の様子がどうもおかしい。体験者の背後をしきりに気にしている。振り返って見ると、遠くに男が立っている。波の中にである。男は左手を伸ばし陸の方を指差した。そちらを見る。砂浜の先の雑草の上に、もう一人の男が立っている。男は左手で上方を指し示している。その方向を見上げるとそこには……。
 伝奇ロマン的な背景を想像させるエピソードで、わけの分からなさが不気味だった。前振りとして「その海岸に行くときは必ず神社に参るように言われていたのだが、そのときはお参りしなかった」というくだりがある。季節ははっきりしないが「海水浴シーズンを外した」とあるので、いわゆる「盆過ぎの海」にまつわる話かもしれない。
「謎の男たち」が登場する話にはこのほかに「高原の交差点」があって、このエピソードとともに本書を特徴付けている。
 
「再開発 蹂躙」「再開発 人形の家」「再開発 とても遠いところ」
 ヤバいものに触れてしまった話。登場人物は下町の再開発に携わる作業員の面々。彼らが手を出してしまったのは、とある集落で秘密裏に祀られ続けてきたモノだった。怪異そのものは直接書かれないが、それに影響を受けたと思しき作業員たちの惨状が3編にわたって詳細に描き出されている。この本の中核をなすエピソードである。
 前に少し書いたことがあるけど、自分はこのエピソードの家によく似た特徴のある借家で暮らしてたことがある。これまでに7回ほど引越しているが、一戸建てに住んだのはそのときだけである。京都の町屋とはいかないまでも、時代がかった雰囲気の住み心地のいい家だったと思う。自分の場合は特に怪奇現象が起きたりはしなかったけど、床板をめくってそれを見たときは、まじで目眩がするほどびびった。知人の実家では建て替えに母屋を壊したところ、地下から「遺跡」が出てきたという。思いもよらないモノが隠された家って、もしかすると想像以上に多いのかもしれない。

「贖罪」戦時中、疎開したまま村に定住した美しい姉妹と、彼女たちを犯し殺害した復員兵にまつわる話。復員兵は「背乗り」で村の青年に取って代わったらしい。姉妹を、それこそ村をあげて慈しんでいた村人たちは、男に残酷な罰を与えた。
 全く救いのない、後味の悪い話で、しかもそれが最後に収められている。戦中、戦後ってだけで、ストーリーがにわかに真実味を帯びるのが不思議。全体にセピアがかった感じなのに、所々突然ピントが合うみたい鮮やかで、映像で見てみたいと思った。

 ……というわけで、これ勢い余って実話怪談からはみ出してるんじゃね? なんて感じるところも無くはなかったが、それで全体の面白さが損なわれることはなかった。怖い話が読みたいけど、ストーカー系の話はピンとこないし、最近は幽霊もなぁ……って人にはオススメの一冊。



『「超」怖い話 鬼胎』
 竹書房 2014 竹書房文庫 HO-215
 著者:深澤夜

 ISBN-13:978-4-8124-8896-6
 ISBN-10:4-8124-8896-6


関連記事
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ

コメント

コメントの投稿

非公開コメント


(この一行は、各ページ下部に固定表示するサンプルです。テンプレートを編集して削除もしくは非表示にしてください。)