江戸川乱歩『虎の牙』

 

 江戸川乱歩『虎の牙』(『江戸川乱歩推理文庫〈33〉虎の牙/透明怪人』講談社 1987 所収)

 舞台は世田谷の屋敷町。そこに「魔法博士」と名乗る派手な格好をしたおっさんが越してきた。フサフサした髪の毛を黄色と黒の虎縞に染め、太いべっこう縁の眼鏡をかけている。近所の子供達は魔法博士が披露する見事なマジックに魅せられ、博士の洋館へと招かれた。子供達の中には少年探偵団の「小林少年」と、その親戚「天野勇一」君という小学生がいたが、ショーの真っ最中に勇一君が連れ去られてしまう。犯人は魔法博士。最初から勇一君に狙いを定めての犯行だろう。
 勇一君の行方は杳として知れず、頼りの明智探偵はここしばらく病気で臥せっている。そんな状況下で少年探偵団に巨大な虎の影が忍び寄る。

 少年に対する悪質な犯罪に血道をあげる「怪人二十面相」がまたしても登場。全体にゆるい印象の本作だが、二十面相は怖かった。ストーリーが相当進んでも、まともな犯行動機が全然見えてこないのだ。度を越した嫌がらせじゃねーかこれって思ったら、本当にそんな感じだったからびっくりした。いかれてる。「怪人二十面相」というネーミングには、もともと「怪盗」にするつもりが、時節柄「盗」の文字が使えなかったので「怪人」にしたという逸話が残されているが、本作の二十面相はまさに「怪人」そのもの。スマートな怪盗ルパンというより、殺しはしないものの、ぶっ壊れ具合はジョーカー(←バットマンの)を彷彿とさせる。

 劇中には小手先のものから大掛かりなものまで、数多くのマジック・トリックが散りばめられている。もっとも大掛かりなのは「館」のトリックで、これは著者の『類別トリック集成』(『続・幻影城』所収)において「[第六]その他の各種トリック(九三例)」の中の「(8)「二つの部屋」トリック」に分類されるトリックである。あまり推理小説読まない自分にも同様のトリックを用いた作品にはいくつか覚えがあるし、ドラマやコミック、アニメでも見たことがある。コナンの歯医者の話とか。もとは古いけど、その時代背景に沿ってカスタムしやすい、古びないトリックなのだろう。この作品が発表された昭和25年当時の読者は、明智の種明かしにきっと驚いたに違いない。それから地下道での消失トリックも面白かった。風船ぶっこ抜き。
 タイトルにもなってる虎については、終始さすがに「虎」が本物かどうかは分かるんじゃないかなー、と思いながら読んだ。もちろん続刊で披露されるとんでもない仮装に比べれば、まだまだ全然おとなしいけど。ちらっと見かけたとか、望遠鏡で見たとかじゃなくて、がっつり見て触って、跨がったりしてるし。やっぱりゆるい。本文挿絵は山川惣治。

 少年探偵団といえば、今期『TRICKSTER -江戸川乱歩「少年探偵団」より』ってアニメやるらしい。まだ見てないけど楽しみ。


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