加藤一『「超」怖い話 申』

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 加藤一編著, 久田樹生, 渡辺正和, 深澤夜共著『「超」怖い話 申』竹書房 2016 竹書房文庫 HO-263

 この本の感想は今年初めに書いたつもりでいたのだが、記事がどこにも見当たらなくてびっくりしてしまった。書くには確かに書いたはずで、書き終えてから付箋もはがしたし、後からもう一度読み直したりしている。アップロードし忘れたのか、アップロード時に何かミスをしたのか。我ながら忘れ物はやや多いが、物忘れはしない奴だと思っていたので、こうも現実と認識が違うと少々びびってしまう。
 実は昨日、夏に出た十干シリーズ「丙」の感想を書くにあたって、なんとなく過去記事を見ようとして↑このことに気付いたのだった。放置しとくと気持ち悪いので、先にこの十二支シリーズ「申」の感想から書きます。

「心にしんと落ちる怪。」というのが今回の帯の煽り、史上最恐! とかそんな感じじゃない、じんわり怖い本書の特徴を端的に表している。全29話収録。印象に残ったのは以下の7編。

「神域」ヤバいものに関わった、触れてしまった話。体験者は宅地造成業を営んでいる。このエピソードのヤバいものとは、まるっと森ひとつって感じの「土地」。お守りが破裂したり神主が倒れたりと、祟り系の話の王道を行くエピソードである。印象的なのは事前に事態を察したと思しき知的障害者の存在で、冒頭の彼の登場によって話に引き込まれた。

「四つ辻」体験者の部屋の窓からは、四つ辻がよく見渡せた。真夜中を過ぎると、そこを不思議なモノが行き来するという。2ページ強のごく短い話だが、イメージはくっきりと強い。なんとなく宮沢賢治の世界を彷彿とさせる。以前自分も似たような環境の部屋に住んでたことがあったから、とても共感することができた。もっとも自分が住んでたのはずっと田舎で、妖しいモノを目撃することもなかったんだけど(暴走族を追いかけてるパトカーは何度も見た)。夜の道路を眺めながらいつも不思議に思ったのは、覗いてるわけじゃないのに、なぜか覗いてる気分になることだった。

「車」体験者の女性が中学生の頃の話。体調を崩して学校を休んだ彼女は、庭を眺めているうちにあるものに気付いた。庭を囲んだブロック塀の向こうに赤い車が停まっている。それが透かしブロックの穴から見える。女性が乗っているようだ。あんな小さな穴から向こう側がはっきり見えるわけがない、そう言って両親は信じてくれなかったが、翌日にはなぜか父がすべての穴を埋めてしまっていた。それからも塀の向こうに赤い車を見かけることがあったが、やがて彼女はそのスペースには車を停められないことに気付いた。数年後、引越しをした直後に父親が急死、葬儀の後、彼女はあの赤い車と女性の正体をぼんやりと知ることになる。
 終わってみれば、体験者は数年~数十年に及ぶ奇妙な出来事を目撃し続けていたことになる。出来事自体はごく地味なものだが、繊細な描写が積み重ねのおかげでこの話のイメージも実に鮮やかだ。どことなく初期の本シリーズ(勁文社時代)の雰囲気があるエピソードで、「じんわり怖い」本書の特徴をよく表している。

「黄ばんだ骨」真夜中のマンションの外廊下で、体験者の女性はとんでもないモノに遭遇する。得体の知れない黒い影が跳躍しながら彼女に迫ってきたのだ。そこで彼女のとった行動は、そしてそのモノの正体とは?
 恐怖のスラップスティック。上記「四つ辻」に続いて、こっちの体験者の住居は自分の今住んでる建物に酷似していて、状況がリアルに想像できて怖かった。前にちらっと書いたけど、今でも自分の部屋があるフロアでは、うち以外の全てのドアの両側に盛り塩がしてある。他の階を見てみたけど、たまに盛ってる部屋があるって程度。流行ってるのかな。

「契り」ある日、大学生の体験者は一枚の写真を拾った。可愛い女の子が写っている。それを何気なく家に持ち帰った投稿者は奇妙な夢を見た。写真の女の子と何かを誓う夢である。ただ何を誓ったのかは思い出せない。それ以来、彼は散発的に彼女の夢を見るようになった。ただし夢は次第に不快感を増し、目覚めると体のいたるところにありえない傷が付いている。そしてある夜、たまたま目覚めた彼は怖ろしいものを見た。
 上の「車」と同様に、人の激しい「思い」が歪んだ形で表出する話。特に怪談においては古典的、普遍的なテーマである。この2編の他にも「見つけた」が同じテーマを扱っている。写真の女の子と何を「契った」のか、全く分からないところが不気味。

「五十日の客」体験者は子供の頃、近所の子供達から「メカケの子」と呼ばれていた。彼の家には父がいなかったが、「五」と「十」が付く日の夜更けには必ず来客がある。彼と姉が奥の間に引き取った後にやってくるので、その顔を見たことはない。息をひそめて耳をすますと、隣室からはボソボソとした会話の声と、押し殺したような母のうめき声が聞こえてきた。その出来事は彼が小学校5年、姉が中2のときに起こった。インフルエンザで臥せっていた母親に拒まれた客が、姉の布団にのしかかったのだ。客の姿を初めて目にした体験者は……。
 今回収録された中で最も好みのエピソードがこれ。具体的に書かれてるわけではないのだが、得も言われぬ「昭和感」が終始濃厚に漂っている。闇の深い和風の建築物を舞台に、影絵のような登場人物が蠢いたり、ささやき合ったりしている。単純な怖ろしさよりも、人の業の深さとか、そういうドロドロとしたものを感じさせるエピソードだった。雰囲気抜群。

「海と恋人」事故で恋人を失って自分の殻に閉じこもるようになった友人から、体験者の元に連絡が入った。亡くなった恋人を見つけたのだという。彼の言動に不安を感じた体験者は、とりあえず友人が恋人と二人でいるという砂浜に駆けつけた。そこで体験者は、友人と、彼のすぐ横に突然現れた人影を見た。
 これめっちゃ怖い。笑いと恐怖は紙一重っていうけど、まさにこのエピソードはそんな感じ。幽霊的なキャラじゃなくても充分に怖かったと思う。

 上記の他にも、前後編にわたる話や、シックな幽霊屋敷の話「廃屋の夜」、切ない「命日」など読み応えのあるエピソードが多かった。あと、グロ描写がほとんどないこと、極端にバカな人が出てこないのも特徴で、全体に落ち着いたトーン。じんわり怖い一冊。



『「超」怖い話 申』
 竹書房 2016 竹書房文庫 HO-263
 編著者:加藤一
 共著:久田樹生/渡辺正和/深澤夜

 ISBN-13:978-4-8019-0616-8
 ISBN-10:4-8019-0616-7


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Posted byserpent sea

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