江戸川乱歩『悪魔の紋章』

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 江戸川乱歩『江戸川乱歩推理文庫〈21〉悪魔の紋章』講談社 1988

「一家を皆殺しにする。」会社取締役の「川手氏」はここ一ヶ月ほど、そんな脅迫を受け続けていた。ところがいくら記憶をたどっても、脅迫者に心当たりがない。そこで法医学者で探偵としても名高い「宗像博士」に捜査を依頼したのである。
 最初の犠牲者は宗像博士の助手の一人だった。続いて脅迫状の予告の通りに、川手氏の次女が殺害される。死体を衛生博覧会の会場に晒すという残酷な手口だった。犯人らしき人物が目撃されたが、その行方は杳として知れない。ただ現場には明瞭な手掛かりが一つ残されていた。それは三重渦状の指紋、「悪魔の紋章」である。この三重渦状紋は動員された捜査陣をあざ笑うかのように、悲しみに暮れる川手氏の周囲で次々に発見される。そして第三の殺人が発生する。川手氏の長女が殺害されたのである。悪魔的な犯人の手口に、常に後手に回ってしまう宗像博士と捜査陣。犯人の狙いは残すところ川手氏ただ一人となった。

 今回、明智探偵は朝鮮半島へ出張中。明智シリーズなのに最後の最後まで明智は出てこない。ずーっと連続殺人犯の暗躍と、それに右往左往する捜査陣が描かれている。全編の九割くらいが犯人の圧勝なので、犯人と探偵の好バトルを期待していると少々物足りないかもしれない。それでも展開は抜群に速いし、いちいち犯行が凝っているから、最後まで飽きずに楽しむことができた。
 犯行の手口はこれまでの乱歩作品から、美味しいとこだけ摘んだ感じ。一つ一つのシーンをじっくりとみれば、さすがにオリジナルの雰囲気には及ばないけど、「衛生博覧会」が舞台だったり「鏡地獄」に迷い込んだりと、「全部盛り」の豪華さがある。またガストン・ルルーやモーリス・ルブランの作品から着想を得たところがあるらしい。残念ながら自分はルルーの作品では『オペラ座の怪人』(“Le Fantôme de L'Opèra”)と「恐怖夜話」(“Histoires épouvantables”)くらいしか読んだことがなくて、ルブランに至っては名前とタイトルしか知らない。なのでその辺の事については全然書けないが、古典的な推理小説の読者にはより楽しめることと思う。

 最後にようやく明智探偵が登場して(最初はその辺の誰かに化けているんじゃないかと思ったけど、本当に出張に行ってた)、解決編に突入する。ここまでのところで、きっとほとんどの読者には主犯の見当がついてるに違いないが、明智の鮮やかな解決ぶりにはカタルシスが感じられる。もしも見当が付いてないなら尚更。あと些細なポイントだが、指を切り落としたキャラの死に関して、多分あいつがやったんだろうなーって感じで雑に読んでしまっていたが、明智探偵の考察には本当に感心させられた。おかげで読後感はスッキリ。



『江戸川乱歩推理文庫〈21〉悪魔の紋章』
 講談社 1988
 著者:江戸川乱歩
 解題:中島河太郎
 巻末エッセイ・乱歩と私:内田康夫(作家)「乱歩からの逃走」

 ISBN-13:978-4-0619-5221-8
 ISBN-10:4-0619-5221-8


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Posted byserpent sea

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