加藤一『恐怖箱 超-1コレクション 彼岸花』

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 加藤一編『恐怖箱 超-1コレクション 彼岸花』竹書房 2008 竹書房文庫 HO-54

 実話怪談本の感想を書き始める前に、いつも最近聞いた怖い話を一つ書いて、それをマクラにできれば……なんて思ってはいるのだが、びっくりするほど思い当たるフシがない。「言い伝え」みたいなのを書き留めたのがあるけれど、お年寄りの話が多いから実話怪談って感じがしない。キツネやカッパがバンバン出てくるし。「民話」って感じ。そこで普段から数少ない友人に話を振ってはみるものの、誰一人として適当な話を知らない。唯一妹がそれっぽい話を知ってそうな人材なんだけど、ここしばらく口をきいてない(ケンカしてるわけではない)。オバケ的なものを見るセンスが無いのは仕方ない(ありがたい)としても、周りに一人くらい「そういえばこの前さぁ……」とか語ってくれる奴がいても良さそうなのに。考えてみれば、この部屋(と廊下とetc)には怪奇小説やこの手の実話怪談本やオカルト関連の本が千冊以上はあるわけで、本同士の相互作用や濃縮還元かなんかで、まずここで何か起きないとおかしいような気もする。そんな怪談をいくつか読んだ覚えがある。まあ実際に幽霊とか出てこられてもめっちゃ困るんだけど。

 この本はweb上で開催された実話怪談コンテスト「超-1 2008年大会」の傑作選である。厳しい相互講評の目に鍛えられた、粒揃いの作品を収録した一冊になっている。

「塩壁」触っちゃダメなものに触ってしまった話。改修のため隣家との境界のブロック塀を壊そうとした際、ブロックの下の方の穴に詰め込まれた塩のダンゴが見つかった。深く考えずに全てを取り壊して、新築の住居に移り住んだ体験者とその妻。しかしその日以来、平穏だった体験者の家庭が少しずつ狂い始めた。まず最初は家屋に異変が出始め、やがてそれはペットや妻の肉体や精神に及んだ。あの塩ダンゴは何だったのか。
 とんでもない出来事が起こってるらしいのだが、体験者にそれを感知することはできない。当然読者にも何の説明もないから、ポイっと放り出されたような気分になる。それがとても実話怪談らしい。冒頭塩ダンゴ発見のくだりから、不吉な雰囲気は満点。また後の方のページの「箱」という話では、禁忌とされてきた「箱」に触れてしまったために、ある一族が苛烈な祟りに見舞われている。

「少女時代」女性の体験者が彼女の姿を初めて見たのは、小学6年生の頃だった。17歳くらいの、死装束をまとった長い黒髪の少女。それがごく自然に体験者の部屋に佇んでいる。それ以来、高校を卒業するまでの間、体験者は家のあちこちに何をするでもなく佇む彼女の姿を見る。
 それだけのごくシンプルな話なんだけど、このエピソードには「見える」ってこんな感じなのかなーっていう不思議なリアリティがあった。この話より少し前に「餓鬼」という話が載っていて、そこには死んでもなお激しい飢えから逃れられない哀れな霊が登場する。何をするでもなくただ佇んでいるこの話の彼女は、一体この世にどんな思いを残したのだろうか。寂寞とした美しさを感じるエピソードだった。この世ならざるものとの自然な交流を描いた話としては「冬のアレ」も印象に残った。

「根」「股間が凄く乾く……。ちょうど陰部の辺りがパリパリになるぐらい乾くのである。」(p.115) という一節から始まる1ページほどの話。そんな妙な悩みを持つ男性の体験者が、ある時、これまでにない強烈な乾きに襲われ風呂場に飛び込んだ。水に濡らそうと股間に手を当てると、そこには異様な感触があった。陰部から肛門にかけて何かが貼り付いているのである。
 うげーっ。そもそも「股間が乾く」という感覚が全然ピンとこないのだが、超気味の悪い現象が生じていることだけはよく分かる。これは一体何なんだ。何か病気っぽいものを特殊な形で感知したのだろうか。

「原因」最近体験者には少々気掛かりなことがあった。焚き返しで使っている風呂桶の水が減ってしまうのだ。調べてみても風呂釜には異常がない。水の減り具合が日によって違うことも不可解だった。ある夜、トイレに行こうとガラス戸を開けると、トイレの隣の風呂場がぼんやりと光っているのが見えた。そこには風呂桶の中に頭を突っ込んで、残り湯をがぶ飲みする女の姿があった。
 怪異と同居する男の話。前述の「少女時代」と似てなくもないが、ここで登場するのは儚げな幽霊ではなく、もっと奇怪なモノだ。劇中でその正体が仄めかされているが、かなりメジャーな妖怪の眷属かと思われる。体験者がそんな薄気味の悪い部屋から退去しなかった理由は、とても共感できるものだった。うちにも出ないかな。

「苦い」かつて悪徳リフォーム業に手を染めていた男性の体験者が、ある集落の家を訪れた。そこは老夫婦だけが住む古い家。適当な工事を終えた夜、体験者は異常な疲れに襲われた。部屋中に異様な気配や臭気を感じ、朦朧としたまま眠りにつけない。気付けば三日間も経過していた。シャワーを浴びようと裸になると、体のあちこちに小さな歯形のような痣が付いている。全身が痛い。それでもどうにか出勤して再びあの集落を訪れたが、体験者を待ち構えていたのは村の老婆の罵倒だった。「お前、何した! あの家に何した! 」
 村の老婆のリアクションが素晴らしい。これも触っちゃダメなものに触ってしまったエピソードだが、祟りの根源らしきモノが明記されている。天罰覿面って感じの話でもある。この一連の出来事の後、体験者は口中に常に「苦味」を感じるようになる。

「痛む雪」両親の離婚の都合で、東北地方の母方の実家で暮らすことになった体験者が、引越し早々複数の怪異と遭遇する。体験者は女性、これは彼女が小学3年生頃の出来事である。夜、窓明りを頼りに、雪の積もり始めた裏庭で雪だるまを作っていると、不意に女が現れた。女の姿は次のように描写される。「薄手のカットソーが明りでうっすらと透けていて、ガリガリに痩せていることだけはすぐにわかった。」(p.209) この後女は体験者の真正面にかがみ込むと、髪や肩についた雪を払ってくれたという。女のイメージは漂白されたかのように白々としていて、幻想的な雪の降る夜の風景にぴったりだ。体験者は後に別の怪異とも遭遇するが、そっちの方は黒い粉を撒き散らす真っ黒な姿をしていた。この2体の怪異は母親の実家で発生した、過去の事件に関係があるらしい。収録作の中では長めの、劇場版って感じのエピソード。

 好みで選んでるのでいつも偏ったチョイスになってしまうが、本書にはここに挙げた他にも興味深い話が多数収録されていた。話の長さ、傾向も様々で飽きのこない一冊。



『恐怖箱 超-1コレクション 彼岸花』
 竹書房 2008 竹書房文庫 HO-54
 編:加藤一
 著者:高田公太/眠/すねこすり/怪聞亭/へみ/宇津呂鹿太郎/黒ムク/じゅりんだ
    山際みさき/ねこや堂/北極ジロ/矢内倫吾/maggi/SPダイスケ
    ちあき/ナルミ/ぼっこし屋/久遠平太郎/比良坂泉

 ISBN-13:978-4-8124-3603-5
 ISBN-10:4-8124-3603-6


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