押切蓮介『ツバキ〈1〉』

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 押切蓮介『ツバキ〈1〉』講談社 2011 シリウスKC

 出版社が変わってタイトルが片仮名になったけれど、本書は前に感想文を書いたぶんか社刊『椿鬼〈1〉』の続編にあたる。キャラクターも世界観も同一のもので、経緯は分からないが、続編というより仕切り直しって感じなのかもしれない。下記の短編5話が収録されている。

「鬼となりて蛇を討つ」「夜叉の滝」「一輪花 前編」「一輪花 後編」「咲 ―サキ―」

 3話めと4話めは前後編の構成で、閉鎖的な山村に捕われた椿鬼(ツバキ)の脱出劇と、村の崩壊を描く。ストーリーの中心に椿鬼が据えられているのが珍しい。
 ぶんか社版の『椿鬼〈1〉』には、伝説のソニー・ビーン(詳しくはwiki等参照)ばりの生活スタイルで、お山に捨てられた老人を食糧にしてる一団が登場したが、この「一輪花」の山村の連中も、人間狩りを生業にしてるというのだから、いい勝負である。旅人から略奪したあげく、男なら殺し、女なら跡継ぎを産ませるために監禁して犯す。もちろん椿鬼が捕われたのは、後者の理由によるものだ。
 薄衣一枚で髪をおろした椿鬼を前に、狂喜した村のババア連中(←主犯)のコメントが、「白い肌、澄んだ眼」「花じゃ、清き花じゃ」「拝みたくなる娘じゃて」(p.86)などなど、自分の感想とほぼ同じなのがアレだ。でもババアのいう通り、ここでの椿鬼はどことなくはかなげで、本当に美しく描かれている。前にも書いたけど、しっとりと柔らかな肌が、淡く光っているように見える。
 後編の冒頭では、その白い肌にノコギリの刃が入る。拘束されてもなお気丈に抵抗する椿鬼に向かって「足二本」「切ってしまえば、村から出る気も失せるじゃろ」(p.105)と言い放ち、ズズッと。ノコギリの刃に沿って、鮮血が走る。むっちりとした太腿の艶かしさもさることながら、怒り、おののき、苦痛に唇を噛み締める椿鬼の表情がまた素晴らしい。村人のタガの外れた感性の怖ろしさよりも、椿鬼のリアクションばかりに目が行ってしまう名シーンである。
 こんな感じで椿鬼の魅力満載の前後編、サブタイの「一輪花」はもちろん椿鬼を指しているのだろう。ぴったりの表現だと思う。

 そのほかの短編にも少し触れておくと、1話の「鬼となりて蛇を討つ」では、椿鬼と他のマタギたちの出会いを通して、マタギとお山の関係を端的に描いている。幼いころの自らを重ねているのか、コマタギの少女「ツツジ」に対して、椿鬼は女として普通に生きる道を説く。
 2話の「夜叉の滝」はひと捻りあるゴーストストーリー。5話の「咲 ―サキ―」は、幼いころの椿鬼とお山の神との交流。この二つの話では人外に対する椿鬼のスタンスと、神さえも宿命からは逃れられないという本作の世界観が、短いページ数で巧みに表現されている。

 表紙は珍しくやや甘ったるい表情の椿鬼。薄暗い背景に浮かんだ白い顔が美しい。本編ではもっと凛とした、厳しい表情が多いのだが、いずれもとてもかわいらしい。童顔で肉感的なミニスカマタギの活躍を堪能できる一冊。


 ※フキダシからの引用は、読みやすいように改行を調整しています。


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Posted byserpent sea

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