つのだじろう『うしろの百太郎〈3〉』

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serpent sea
 つのだじろう『うしろの百太郎〈3〉』講談社 1983 KCスペシャル 33

 我が子を失った親の慟哭を強烈に描いた「第七章 磯幽霊怪異編」「第八章 一太郎が死んだ!」を収録。その他写真ネタ等。びびる一太郎の正面に大きく黄緑色の手のひらを配したカバーイラストは、シリーズ随一のかっこよさ。このイラストのTシャツが欲しい。

「第七章 磯幽霊怪異編」
「夏です!! まっさおな空に白い入道雲がムクムクとわきあがり、白い波しぶきがみんなを海へさそいます! 」(p.6) ……そんなモノローグから一転、いきなり水死者が出て、全然レジャー気分じゃなくなる海パン姿の「一太郎」親子。がっかりムードの一太郎だったが、旅館の娘に誘われて何の気なしに磯へと出向いていく。ところが磯まで来てみると、真っ暗な夜の海は思いのほか怖ろしかった。気付けば少女の姿がどこにも見当たらない。波にさらわれてしまったのか。その時、波間から現れた何者かの霊が一太郎を海中に引きずり込んだ。同じ頃、一太郎の父親は戻らない息子を必死に探し続けていた。その日は旅館の娘の命日だったという。翌日、家族の祈りも虚しく、一太郎は水死体となって浜辺に打ち上げられたのだった。
 真っ暗な海と葬式のシーンが印象的な不吉さ満点の一編。このエピソードでは一太郎がまじで死亡してしまうのだが、それよりも行方不明になった息子の姿を必死で追い求め、その死を嘆き悲しむ両親(特に父親)の激しい描写が圧感。この「磯幽霊怪異編」と続編の「一太郎が死んだ!」を合わせて一冊のちょうど半分ほどの長さになるのだが、悲嘆にくれる両親の様子が延々と描かれていて、正直なところめっちゃ重い。もともと感情的な一太郎父が、号泣するわ、落ち込むわ、ピラミッドパワーに頼るわで、暑苦しいったらない。それでも著者の気合がビンビン伝わってくるから流し読みもままならない。改めて著者の力量のもの凄さを実感することができた。嘆きの一太郎父の他にも、黒々とうねる海と激しい波しぶき、水ぶくれした霊の不気味な表現等々、実に見所が多い。劇中「舟幽霊」(柄杓を欲しがるやつ)や、三重県津市の集団水難事件にまつわる怪談が、ストーリーから乖離することなく自然に挿入されているのも良かった。傑作エピソード。

「第八章 一太郎が死んだ!」
 棺の中でぽっかり覚醒する一太郎。早すぎた埋葬にパニックに陥る一太郎だったが、棺桶には懐中電灯や呼び出しのベルなど、息子が万が一蘇った時のための準備が万端整えられていた。さすが一太郎父。結局一太郎は行方不明から丸々五日目にして復活する。
 2ページ目にしてサブタイは無かったことに。主人公だけにそりゃそうだよなーと思う反面、棺桶の暗闇と花の中で身動きひとつできない状況がしばらく続くのでまだまだ安心できない。一太郎が復活した後は、一太郎の臨死体験と父によるその解説で占められていて、通常営業に戻った印象。前話で海に引き込まれて以降の怖ろしい出来事の数々が詳らかにされる。今回の一太郎の死は、「魂の尾」が肉体と繋がったままの幽体離脱の状態だったという。魂の尾のいかにも頼りなげな描写が怖い。当然切れたらアウト。最終回っぽいエピソードだが、ここで軽く触れられた「死後の世界」については、後により詳細に描かれることになる。

「第九章 恐怖の心霊写真」
 上級生の女子から持ち込まれた心霊写真の調査のために、撮影現場の山を訪れた一太郎親子と同行者数名。とりあえず周辺を撮影してみると、早速それらしい写真が撮れた。そこにあるはずのないテントが写っていたのだ。テントの霊なんてあるのか?? そんな疑問を抱きつつキャンプを続ける一太郎たちだったが、深夜の森の中で写真の通りのテントを目撃する。と思ったらテント大爆発。その直後、同行していた青年「望月さん」の様子が豹変する。望月さんはダイナマイトを手に一太郎を拉致、そのまま逃走してしまう。山中に潜伏して爆弾を作ろうとしていた過激派の霊に憑依されたのだ。
 読者の予想の遥か斜め上をいく驚愕の展開。エピソードの大半は国会議事堂の爆破を目論む望月さん(憑依済み)の活動で、プラス一太郎父の心霊解説少々って感じ。女子中学生が何となく持ち込んだ心霊写真のために、とんでもない事が起きてしまっている。最大の見せ場は、電車の中で向かい合って座る一太郎と望月さんの頭上で、百太郎と「バレスチン民族解放戦線の闘士の霊」(過激派の霊)が睨み合っているところ。もの凄い絵面だ。著者の異能ぶりを堪能できる一編。

「第十章 念写の実証」
 ある日飼い犬の「ゼロ」が、一太郎と父親の前で「だれの目の前でも証明できる物理現象」、「念写」を実演してみせる。たちまちテンションMAXまで登りつめた父親は、清田君や福来博士、様々な海外の実例を引き合いに出しつつ、念写の実在について延々と語るのだった。
「この章における登場人物の発言は、すべて漫画家つのだじろうが、その心霊科学、超常現象研究の生命をかけてまったくの真実であり、責任を持つことをちかいます!」(p.272)という、やる気満々の著者の言葉から始まる短めのエピソード。図、写真、インタビュー記事から構成されていて、実に「心霊恐怖レポート」らしい。著者はエピソードごとに虚実のバランスを自在に変化させて作品にメリハリをつける。一太郎父のキレっぷりが半端ない。

「第十一章 ポルターガイスト」
 薪割りの斧が突然空中に飛び上がり、被害者の頭部を叩き割った。すぐさま警察に通報されるが、事件の一部始終を家族や使用人が目撃しており、捜査たちまち行き詰まった。被害者の妻によると、この事件はポルターガイストの仕業であり、専門家を呼ぶ必要があるという。そこで召喚されたのが一太郎と父親。心霊現象を全く信じようとしない捜査陣を尻目に調査を開始すると、たちまち激しいポルターガイストが生じたのだった。
 次巻に収録される話のプロローグ的なごく短いエピソードだが、黒く重々しい画面からは著者の気合が伝わってくる。霊との交信実験が始まったところで続く! ! 詳細は次巻の感想で。



『うしろの百太郎〈3〉』
 講談社 1983 KCスペシャル 33
 著者:つのだじろう

 ISBN-13:978-4-0610-1033-8
 ISBN-10:4-0610-1033-6


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serpent sea
Posted byserpent sea

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serpent sea  
Re: おじゃまします。

>>軍曹亭! さん
コメントありがとうございます!
「恐怖新聞」も良いですねぇ。印象としては「百太郎」よりも、ややマニアックな感じでしょうか。
悪霊がぐにょ〜っと伸びるみたいに歪む表現(コピー機で絵をずらしながらコピーしてる??)は
今見ても怖いです。

こちらこそ宜しくお願いします!

2016/06/18 (Sat) 00:18 | EDIT | REPLY |   
軍曹亭!  
おじゃまします。

先日は御訪問ありがとうございました。
突然ですが、私はどちらかというと「恐怖新聞」派です(笑)
また、覗きに来ますので今後ともよろしくお願い致します。

2016/06/17 (Fri) 22:13 | EDIT | REPLY |   

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