江戸川乱歩『鉄塔の怪人』

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 江戸川乱歩『鉄塔の怪人』(『江戸川乱歩推理文庫〈35〉鉄塔の怪人/海底の魔術師』講談社 1988 所収)

 ある大富豪が鉄塔王国の使者を名乗る男から、1千万円か子供か、どちらかを差し出せという無茶な脅迫を受ける。1千万なら鉄塔王国の維持管理費に用い、子供なら組織の構成員として育成するらしい。
 鉄塔王国とは木曽の山中の城塞を根城にした犯罪集団で、構成員は全員リアルなカブトムシの着ぐるみを着ているという。何度かの駆け引きのあげく、結局さらわれてしまった大富豪の息子を助けるべく、小林少年の決死の追跡劇がはじまる。

 小学校の図書館に並んでいたポプラ社の旧「少年探偵シリーズ」では、『鉄塔王国の恐怖』ってタイトルになっていたけれど、この『鉄塔の怪人』が原題。実に懐かしい、なんて書きたいところだが、実はストーリーをすっかり忘れてしまっていた。インパクトを受けた場面が断片的に思い出されるだけで、ストーリーの方は全然思い出せない。明智探偵が出てきたことすら覚えてなかったのだ。そこで改めて読み直してみたところ、パノラマ島の人見を易々と凌駕するほどの、二十面相の狂気とセンスが炸裂する怪作だった。

 以前建築関係の雑誌に、各地のかっこいい鉄塔についてあれこれ解説する連載が載っていてびっくりしたことがある。さすが専門誌、なんて渋い趣味だろうと思った。もっとも本作に出てくる鉄塔は、普通に思い浮かぶようなトラス構造の、ポピュラーな鉄塔とはかなり趣を異にしている。用途も最後までまったく分からない。モチーフを本来の用途から切り離して、単にかっこいいオブジェとして捉えているからこその「鉄塔王国」という発想だろう。劇中、鉄塔そのものはあまり活用されていないが、鉄塔の醸し出すどこかアナクロで、鉄臭さの漂う雰囲気は満点だ。
 そしてカブトムシというチョイス。子供をさらって着ぐるみに押し込め、カブトムシ軍団を作るという計画自体、相当にアレなんだけど、自ら着ぐるみに入り、汗まみれになって子供たちに演技指導をする二十面相には、なんとも言えないそら怖ろしさと、頭を抱えたくなるような切なさを覚えた。子供たちが入ったカブトムシ軍団を前にして、二十面相が叫びながら鞭をふるうシーンは、少々の瑕疵など吹き飛ばしてしまう地獄絵図だった。

 ポプラ社版をはじめて読んだころの記憶を発掘するつもりで読み直してみたが、予想通りまるで初読のような感じだった。ファニーな二十面相、立ち居振る舞いがそこはかとなくMっぽい小林少年、どちらも味わい深い愛すべきキャラだ。そして過保護に感じられるほどの、語り手、地の文の存在感の強さも特徴のひとつで、ここにまた懐かしさを感じる人がいるかも知れない。
 著者の驚異的な想像力とサービス精神の賜物である、この鉄塔とカブトムシという二大かっこいいアイテムの奇跡のコラボ、気楽に読むにはもってこいの楽しい作品だと思う。



『江戸川乱歩推理文庫〈35〉鉄塔の怪人/海底の魔術師』
 講談社 1988
 著者:江戸川乱歩
 解題:中島河太郎
 巻末エッセイ・乱歩と私:内藤陳(俳優)「いざ翔ばん乱歩世界(ワールド)へ」

 収録作品
 『鉄塔の怪人
 『海底の魔術師

 ISBN-13:978-4-0619-5235-5
 ISBN-10:4-0619-5235-8


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Posted byserpent sea

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