江戸川乱歩『魔法博士』

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 江戸川乱歩『魔法博士』(『江戸川乱歩推理文庫〈36〉灰色の巨人/魔法博士』講談社 1988 所収)

 少年探偵団の凸凹コンビ「井上君」と「野呂君」(愛称「ノロちゃん」)が市中で怪しい男と遭遇、追跡を始める。男はオート三輪の荷台にセットした移動映画館で子供を集めると、駄菓子を売り、のろのろと次の現場へと移動していく。そして運転席から降りてくるたびに姿を変える。道化師だったり、西洋悪魔だったり、大きな虎だったり。男はわざと車をゆっくり走らせて、二人の少年を誘っているらしい。虎の着ぐるみ姿の男に声をかけられた二人は、誘われるがままに森の奥へと分け入っていく……。
 この怪しい男は自称「魔法博士」。どう考えても無理っぽい野望を叶えるために、少年探偵団の二人をかどわかし、地下に「悪魔の国」なる壮大な施設を築いている。その野望とは名探偵「明智小五郎」とその弟子、少年探偵団の「小林少年」を「盗み出し」、自らの配下とすることであった。

 頭のおかしいおっさんプレゼンツ、恐怖の一大アトラクションって感じの作品。魔法博士を名乗る怪しい男の正体は、当然あの洞窟大好き男「怪人二十面相」である。
 この作品の二十面相は支離滅裂ぶりに拍車がかかっていつも以上に怖い。少年探偵団の面々を接待するだけのために、地下に変態っぽい巨大なアトラクション(まじでアトラクション)を作ってしまってるのだ。作品の大半はそのアトラクションと、大いにエンジョイする少年たちの描写で占められている。このブログはいわゆる突っ込み系のブログではなくて、寝る前の読書っぽく、気に入った本をまったり鑑賞ってスタンスなんだけど、それにも関わらず何度も何度も突っ込みたくなった。ほんと何がしたいんだ、二十面相。

 少年探偵団のために用意された出し物の中で、まず一番大掛かりなのが「胎内くぐり」。これは巨人の口から飲み込まれた少年たちに、人体模型を千倍も大きくしたような巨人の胎内を無理やり見学させるという、科学的かつ変態的な趣向のアトラクションで、『ミクロの決死圏』(1966)の十数年先を行っている。ランドセルサイズの歯とかブツブツ泡立ったようなネズミ色の肺臓とか、描写がいちいち生々しい。続いて幼い黒人の子供をバラバラにする猟奇的なマジック「インド魔術」が演じられ、ここで探偵団の三人は黒人の子供の復活を祝って喜びのダンスを踊らされることになる。わけが分からない。他にも巨大なゾウが煙のように消える部屋など、小林君たちが羨ましくなるようなアトラクションが目白押し。ほんと何がしたいんだ、二十面相……。

 終始、暴走する二十面相の狂気に引っ張り回されっぱなしっで、ストーリーは何処へやらって感じだったけど、それでもこの作品は非常に面白い。上記の他にも古井戸から貞子ばりに登場する黄金仮面とか、沢山のロボットや蝋人形が置いてある「人造人間の部屋」とか、楽しいシーンが最後まで切れ目なく続く。劇中の幻想の数々が、すべて超絶アナクロテクで構築されているのが素晴らしい。
 物語はいつもの通り最後の方で明智探偵が大活躍、二十面相との知恵比べに勝利して終わり。味わい深い挿絵は古河亜十夫によるもの。ちっこい黄金仮面が可愛らしい。


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Posted byserpent sea

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