A・ブラックウッド『打ち明け話』

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 アルジャノン・ブラックウッド(Algernon Blackwood)著, 中西秀雄訳『打ち明け話』(“Confession”『ブラックウッド怪談集』講談社 1978 講談社文庫 所収)

 トラックの後ろを走っていると、たまにこっちに気付いてないんじゃないかと思うことがある。とくに左斜め後ろを走っているとき。ゆるーっと幅寄せしてきて、慌てて元の車線に戻る。そんな挙動をする。昨日の朝はびっくりするほどの霧だった。視界2メートルくらいか。なのでいつもよりびびりながら、ライト類も全て点灯してそろそろと走った(ライト直しといてよかった)。こんなときに限って、斜め前にずっとコンビニのトラックがいる。こっちに気付いてるかどうか、気になってしょうがない。
 乳白色の霧の中から、対向車や自転車の高校生が突然ぼっと現れる感じは、ビジュアル的にはかっこよかったけれど、前の車のテールランプに集中していて、そのかっこよさをじっくり味わう暇もなかった。霧の多い地方の人はほんと大変だと思う。今日は雨になってよかった。

 霧をモチーフにした作品は数多い。単に怖っぽい雰囲気作りのための霧ではなく、霧そのものが怪異の主体となっている作品。この『打ち明け話』もまたそんな作品だ。人の知覚を混乱させる霧が全編を白く覆っている。
 主人公は戦争で心にダメージを負った気弱な男。劇中では「弾丸衝撃症」(シェル・ショック)と診断され、症状として死んだ戦友たちの幻を見る。PTSDだ。そのリハビリのために一人で知人を訪ねるつもりでいたのである。ところが駅から外に出ると、町全体が一歩も進めないほどの濃霧に包まれている。いきなり混乱する主人公。霧の中から通行人がランダムに現れては、消えていく。主人公には霧の中の人々が現実の人間なのか、傷ついた精神が見せる幻なのか判別ができない。どうにかなってしまいそうなのを必死で堪えて、じりじりと進む。やがて見るからに様子のおかしい一人の女と行き合った。
 彼女は主人公に輪をかけてヤバい状態に陥っているらしかった。突然走り出した女の後を追って、主人公は一軒の館に誘われていく。そしてそこで冷たく横たわる女の死体を発見したのだった。

 この作品の霧は人の方向感覚を狂わせるばかりか、時空まで歪めるような超自然的な働きをするらしい。著者はそんな特殊な霧で幽霊屋敷をすっぽりと包み込み、そこにPTSDに苦しむ主人公を配して、過去の出来事を繰り返す系の古典的なゴーストストーリーに一ひねりも二ひねりも加えている。怖さよりも霧の中の不安感が印象に残る作品だが、短編小説としての結講もがっちり備えており、巻末の「訳者ノート」の解説では収録作中、最も優秀な作品と評されている。タイトルは最後に出てくるもう一人の登場人物に、主人公が一連の出来事を打ち明けることから。


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Posted byserpent sea

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