森由岐子『呪われた変身』

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 森由岐子『呪われた変身』ひばり書房 1988 ヒット・コミックス 154 怪談シリーズ

「麻紀」と「志麻」は裕福な家に生まれた双子の姉妹である。母親が出入りのセールスマンと駆け落ちして以来、父親によって軟禁状態で育てられてきた。ところがその父親が事故で死亡してしまう。父の死の知らせを聞いてザマーミロとばかりに高笑いする姉麻紀と、ヨヨヨヨヨと泣き崩れる妹の志麻。姿形こそ見分けがつかないほど似てはいるものの、姉妹の内面は性格から趣味趣向に至るまでまるで正反対だったのだ。父親似の姉は冷酷で嫉妬深く、妹は母親に似て物静かで優しい。ただ、二人には容貌の他にも一つだけ共通点があった。好みの男性のタイプである。
 ある時麻紀は屋敷の開かずの部屋が、父親の拷問部屋だったことを発見する。そこには駆け落ちしたはずの母親の無惨な死体と、父によって書かれた拷問日記が残されていた。様々な拷問具が並ぶ部屋で、麻紀はゾクゾクするような興奮を覚える。「ああ……この部屋で思いきり誰かをいじめてみたい」。そしてその願いはばあやの孫「史郎」が屋敷を訪れたことをきっかけに、思い掛けない形で成就するのだった。

 ジュリエットとジュスティーヌのような対照的な姉妹の織りなす古典的な三角関係の物語。井上梅次の「江戸川乱歩の美女シリーズ」(よく言えばAIPのポーの原作もの)に出てきそうな洋館を舞台に、著者の作品としては珍しく抑制の効いた物語が展開する。突飛なところがないから少々寂しいような気もするが、いつもより二割り増しくらい美しく整った作画(ふにゃっとならない)と、古典的なストーリーがよく嚙み合って、なんだか格調が高い。ヒロインが健気な妹の方でなく、意地悪な姉の方になっているのが著者らしいところか。特に見応えがあるのは、中盤、史郎を独り占めするために、妹と入れ替わって以降の麻紀の活躍。妹の志麻に鞭を振るい「この髪が史郎さんをたぶらかしたのね。おのれ憎らしい。この体が史郎さんを惹きつけたのね。ええいくやしや! 」と叫ぶ麻紀。ベッドで「ふるえるわ。体がぞくぞくしてくるわ。志麻の泣きさけぶ声……苦しみもがく悲しい声……」なんて妄想をしながら、緊縛写真集を抱きしめて恍惚とする麻紀。……素晴らしい。
 実は麻紀には映画『犬神家の一族』(1976)の松子のように、亡父の怨念にどこまでも縛られてるっぽい悲劇的な側面があるのだが、その辺はほとんど掘り下げられることもなく、一貫してサディスティックな姉として描かれ、スッキリと無情な最期を迎えている。超常的な要素は皆無だが、そこはかとなく性的な雰囲気が漂う良質なサスペンス作品。



『呪われた変身』
 ひばり書房 1988 ヒット・コミックス 154 怪談シリーズ
 著者:森由岐子

 ISBN-13:978-4-8280-1154-7
 ISBN-10:4-8280-1154-4


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Posted byserpent sea

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