小松左京『海の森』

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 小松左京『海の森』(『夜が明けたら』勁文社 1985 ケイブンシャ文庫 113 こ01-05 所収)

 昔持ってた怪獣図鑑の分類を適用するなら「伝説怪獣」モノど真ん中って感じの短編。怪獣の出てくる小説のファンにはたまらない作品だ。ストーリーは怪獣映画なら自衛隊や防衛軍etcが登場する前の、プロローグのところで終わってるのだが、それでも充分なワクワク感で読み応えがあった。短い作品ながら仏像や古代のゾウに関する薀蓄がかなりの分量を占めている。

 舞台は海辺の土木作業現場。普請場の近くの寮で寝起きする主人公の潜水夫は、深夜地響きのような足音を聞く。それは海から来て寮の傍の通りを山へと向かったらしい。表に出てみると強い潮の匂いがする。そして山の方からは何ものかの怖ろしい叫び声が聞こえてきた。足音と咆哮、ゴジラの大戸島上陸を彷彿とさせる抜群の書き出しだ。
 翌日、主人公は現場で起きた少々嫌な出来事を耳にする。臨時雇いの若い作業員が、崖の上の何かの塚を破壊したというのだ。姿こそ判然としなかったが、塚に祀られていたのは確かに仏像で、台座は例の作業員が海に蹴り落としてしまっていた。その日以来、海は濁り続けた。海中の視界が確保できない中、案の定事故が発生する。それでも作業は続けられた。
 次の夜も主人公はあの足音を聞いた。外に飛び出してみると、アスファルトの上に巨大な足跡が続いている。生臭い磯の臭い。巨大な獣の息遣いのようなものが、すぐ先の闇の中から聞こえる……。

 この時点では足音の主と石仏との具体的な関連は明示されない。しかし悪い予感しかしない。あーこれ、確実に悪いの解き放っちゃってるわって感じだ。
 劇中の地元の漁師によると、舞台となった作業現場周辺の海底には「鯨の墓場」があるらしい。石仏の安置されていた塚も「鯨塚」ではなかったかと考察されている。「鯨塚」というのはその名の通りクジラを祀った塚で、「鯨碑」「鯨墓」などと合わせて全国各地に100基ほどが点在している。日本特有の風習らしい。なかにはクジラが参りやすいようにと、海に向けて建てられたものもある。劇中には石仏の下から巨大な骨が出土するくだりがあるが、現実にもクジラの遺骸の上に築かれた「鯨塚」が複数存在する。

 作品の最後では散りばめられていたヒントの数々が綺麗に組み合わさり、推理小説みたいにすっきり謎が解ける。石仏の正体が「普賢菩薩」であり、「鯨の墓場」が実は古代のゾウの墓場だったこと、そしてあの足音と咆哮の主の正体等々。主人公は海底に森と、そこに揺らめく無数の「見えない巨大な獣」の姿を見る。クライマックスの海底の森の、美しく荒涼としたイメージが印象的だった。


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