横溝正史『獣人』

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 横溝正史『獣人』(『悪魔の設計図』角川書店 1976 角川文庫 所収)

 バラバラ事件が発生する。被害者は若い女。頭部が銀座の百貨店に展示された乳母車の中から、腕が東京の片隅の「言うをはばかるような不思議な街」の狭い路地で相次いで発見される。同じ夜、主人公の青年「由利麟太郎」はたまたま通りかかった雑司ヶ谷の鬼子母神の境内で、奇怪な動物を目撃した。それは「全身は鋼鉄のようにピカピカ光っていて、しかも針を植えたような鋭い毛が一面に突っ立っている。顔はえたいの知れぬ黒さに包まれ、眼は爛々たる燐光を放ち、くちびるの間からニューッとのぞいているまっ白な牙の先からは、何やら赤黒い液体が、ポタポタと垂れている」という、とんでもない怪物だった。全身のイメージはゴリラそっくりに見えた。逃げ出した怪物の後を追った由利は、とある洋館の周辺でその姿を見失ってしまう。仕方なく洋館の呼び鈴を鳴らすと、横柄な面構えをした老人が現れた。老人は有名な学者で、怪物には全く心当たりがないと言うのだが……。

 前に『暴行魔ゴリラー』(←前の記事へのリンクです)という映画を見た。頭のおかしい博士が病弱な息子にゴリラの心臓を移植したところ、息子がゴリラみたいになって女子を襲いはじめたので、こりゃまずい! ってことで今度は女子プロレスラーの心臓を移植するって話だった。こんな風に書くといかにもアホな映画のようだが、実際にはわりと真面目に作られたアホな映画だった。そんな映画のメイン怪人「ゴリラー」みたいな怪物が登場するのが、この『獣人』。『モルグ街の殺人』+『ジキル博士とハイド氏』を戦前の帝都東京で展開したような作品で、フェイクでない超常現象をほとんど書かなかったと言われる著者には珍しく、相当ホラー、SFジャンルに接近している。
 劇中には酷い状態の死体や突飛な怪物が出てくるけど、肝心の殺戮シーンが品よく読者の想像にお任せになっていて、戦後の金田一シリーズと比べると全体のトーンはあっさりめで軽やか。で、洋風だ。また著者の作品には魅力的な女性キャラが度々登場するが、本作の二人のメインヒロイン(レビュー団のスター)もその例に漏れず、対照的ないいキャラクターだった。主人公の由利麟太郎は、好奇心旺盛でやたらフットワークの軽い「学生上がりのまだ生若い青年」と描写されており、まだまだ「先生」と呼ばれるほどの貫禄はない。下宿の一室で本に埋もれて暮らしていて、定職に就いてるのかどうかも定かではない。高等遊民ってやつかな。これまで「由利先生」が活躍する作品を読んできたので、ぶらぶらしてる「由利青年」は新鮮だった。気楽に読める作品。


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Posted byserpent sea

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