江戸川乱歩『海底の魔術師』

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 江戸川乱歩『海底の魔術師』(『江戸川乱歩推理文庫〈35〉鉄塔の怪人/海底の魔術師』講談社 1988 所収)

 房総半島の沖合、沈没船で作業をしていた二人の潜水夫が、海中の怪物を目撃する。それは全身が鉄でできた人間とワニの間の子のような怖ろしい姿をしていた。直後、今度は近隣の漁村の少年が同様の怪物と遭遇する。鉄の人魚のようなその怪物は、怯える少年に「マモナク、ニッポンジュウガ、オオサワギニナルダロ、オレガ、シゴトヲ、ハジメルカラダ」と言い残し、海中に消え去った。
 話は変わって東京都、世田谷区。少年探偵団の団員「宮田賢吉」君が、帰宅途中に謎の人物から鉄の小箱を託された。小箱には莫大な金塊を積んだまま沈んだ「大洋丸」の、沈没地点を記した書類が収められていた。鉄の人魚はそれを狙っているらしい。ここに海底の金塊を巡って、明智探偵と少年探偵団、それから現場の潜水夫(はだかの勇士)の皆さんと、鉄の人魚を操る謎の軍団との戦いの火蓋が切って落とされた。

 沈没船の財宝、鉄の人魚、巨大ガニ、クラシックな潜水服、潜航艇などなど、凄まじく魅力的なガジェットがてんこ盛りの海鮮丼みたいな作品。かなりSF色が強い。メインの舞台が珍しく海洋に設定されていて、スリリングな水中イベントが矢継ぎ早に発生する。沈没した「あしびき丸」の船内で潜水夫が初めて鉄の人魚を目撃するシーン、少年が磯で鉄の人魚と遭遇するシーンなど、冒頭からぞくぞくするようなシチュエーションが続く。鉄の人魚の群れを操り、金塊を狙って暗躍する謎の怪人の正体は、毎度おなじみ洞窟大好きなあの男。……という感じで、確実に面白いだろって品揃えだ。最初に数ページ読んだ時には、これ凄いの来たなーって思った。ところが肝心のストーリーが今一つ盛り上がらない。多少無茶だけど、とんでもない展開にびっくり! ってこともなく、ふわーっとメリハリなく話が進んでいく。あまり上手い例えじゃないけど、ハリー・ハウゼンの映画を小説にしたみたいな感じだ。
 また財宝探しと水中バトルがメインなこともあって、多くの場面で敵と直接対峙するのは潜水夫(はだかの勇士)の皆さん任せ。明智探偵 with 少年探偵団の活躍はごく少ない。最後の最後に敵のアジトに侵入するまでは、出番自体が少なくて寂しかった。

 そんなわけで海洋小説が大好きな自分にとっては、めっちゃご馳走のはずだったのだが、冒頭で期待値を引き上げられたこともあって、結局、不完全燃焼のまま読み終えてしまった。ただもしもこれが映画だったら、確実に好きな作品になっていたと思う。上記の他にもかっこいいシーンがやたら多いから。雰囲気抜群の本文挿絵は谷俊彦によるもの。



『江戸川乱歩推理文庫〈35〉鉄塔の怪人/海底の魔術師』
 講談社 1988
 著者:江戸川乱歩
 解題:中島河太郎
 巻末エッセイ・乱歩と私:内藤陳(俳優)「いざ翔ばん乱歩世界(ワールド)へ」

 収録作品
 『鉄塔の怪人
 『海底の魔術師

 ISBN-13:978-4-0619-5235-5
 ISBN-10:4-0619-5235-8


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Posted byserpent sea

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serpent sea  
Re: No title

>>なまずさん
コメントありがとうございます!

潜水夫持ち上げすぎってくらい持ち上げてますよね。モブの作業員かと思ってたのに、ネーミングまでされてるし。強すぎる。
殺人は二十面相が直接手を下してないし、直接の死因は衰弱死っぽいからOKって感じなのかな。
それに関して劇中で誰もリアクションしてませんでしたよね。

二十面相は美術品狙ってみたり、子供誘拐して金を要求したり、作品ごとに獲物のブレも大きいです。
盗む過程が重要なのかと思えばそうでもないし。代替わりは考えたことなかったけれど、そう言われてみれば複数いそうな気がします。
共通点は洞窟好き。それから美術品にせよ現金にせよ、まずロクな使い方をしてないところでしょうか。

2015/12/22 (Tue) 23:35 | EDIT | REPLY |   
なまず  
No title

いつも楽しく読まさせて頂いてます!

「海底の魔術師」と言えば潜水夫、矢張り私も彼等の活躍に目が行きました。
何しろ手下のメタル魚人軍団はおろか、二十面相のカニロボを倒したのも彼等ですしね。

それともう一つ気になったのは、冒頭で財宝の事を記した紙を持つ謎の男が襲撃された後死亡してしまうシーン。
二十面相が直接手を下したワケでは無いにしろ、彼の勢力が殺人を犯したのには少し違和感を覚えました。

どうも作品毎に二十面相にもブレがある様に感じますが、代替わりしてるという説もあるそうなので、
美学や犯罪の許容範囲に差があるのかもしれませんね。



2015/12/22 (Tue) 06:59 | EDIT | REPLY |   

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