つのだじろう『うしろの百太郎〈2〉』

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 つのだじろう『うしろの百太郎〈2〉』講談社 1983 KCスペシャル

 前巻から続く「第四章 コックリ殺人編」と、著者独特のスタイルが確立した「第六章 コックリ憑依編」に、真正面からPKに取り組んだ意欲作「第五章 念力少女ワッコ」を加えた3編を収録。百太郎の影は薄いが、すごい読み応えの一冊。

「第四章 コックリ殺人編」
 前巻で正気を失い入院してしまった「小早川先生」、幸いその後の容態は安定しているらしい。先生がおかしくなった原因は「心的分離」という精神異常の一種によるものだという。やがて小早川先生が復帰するのと時を同じくして、校内で凄惨な事件が発生する。生徒が連続して殺害されたのだ。退院早々、小早川先生の苦悩はハンパない。自分の身に危険が迫るのを感じた一太郎は、殺された生徒の霊を呼び出し真犯人を聞き出したのだが……。
 憑依された教師が生徒を襲う、以前感想を書いた『霊界通信』(←前の記事へのリンクです)でもほぼ同じネタが用いられていて既視感の強い一編だが、発表年次からすると本作がルーツなのかな。同じじゃないけど似た感じのシチュの作品は本作の「第十四章 イヌ神つき伝説」『呪凶介SPI霊査室』『学園七不思議』(←前の記事へのリンクです)等々数多い。さて本編では、前巻で散々ハウツーコックリさんをやってたにも関わらず、ここにきて所長(一太郎の父親)が「シロウトがやるのはぜったいにキケンだ!」(p.7)なんて言い出した。コックリさんに玄人がいるのかどうかはさて置き、後出しジャンケンも甚だしい。最後に「……もしこの話を聞いたら」が付いてくる怪談のような嫌な構成だ(褒めてます)。実際にはあまりの反響の多さと様々な問題が生じたことから、ゆるーっと方向転換をしたってのが真相ではなかろうか。シメはコックリさんもの定番の隔離エンド。盤石。

「第五章 念力少女ワッコ」
「後心霊科学超能力開発研究所」を訪れた少女「ワッコ」は強力な念力の持ち主だった。念じるだけでスプーンはおろか道路標識の支柱を軽々と曲げ、物体を動かし、発火させることさえできる。最初のうちは友好的に一太郎親子と接していたワッコだったが、一通りレクチャーを受けるとガラリと態度を変え、不気味な笑いを残して去っていった。それ以来、一太郎の周辺に奇怪な事件事故が頻発する。それは「後心霊科学超能力開発研究所」を逆恨みした、ワッコと彼女の父親の仕業であった。ワッコの父親もまた強い念力を持っており、親子揃って邪悪な念を研究所に送り続けていたのだった。一太郎たちの必死の抵抗も虚しく焼け落ちる研究所……。
 つのだ版『ファイアスターター』(“Firestarter”)。ただし本作のワッコ(とその父親)はチャーリー(とその父親)とは比べものにならないほど、邪悪で執念深い。心霊的な怖さはないけど、人の(逆)恨みの怖ろしさがごってりと重い一編で、めっちゃ悪い顔をしたワッコの父親の凄惨な死に様はトラウマレベルの迫力だ。またこのエピソードでは一太郎の家族が被る念力による被害の状況の他に、ESP全般についての講釈が丹念に描かれている。霊能力と超能力の関係については「現在はいちおうESP…超能力と心霊は…、わかりやすくするためにわけて考えるのが普通になっているがな……! とうぜんふかい関係がある!」(p.86-87)って感じで、なんとなく歯切れが悪いが、関係はあるが別のものということらしい。所長の部屋着は裸にガウンがデフォルト。

「第六章 コックリ憑依編」
 研究所兼自宅を失った一太郎とその家族は、ぱっと見「あきらかに霊気が漂っている」古い借家に身を寄せることになった。案の定心霊現象が頻発し一太郎を悩ませる。そんな一太郎のもとを二人の少女が訪れた。遊び半分で繰り返しコックリさんをやっているうちに、右手が勝手に動いて文字を書くようになったという。不在の父親に代わって担ぎ出された一太郎は、相談者の学校でコックリさんの講義をすることになった。
 劇中にこんな著者の言葉がある。「これからはじまるコックリさんの話はじっさいにあった事件として、読者の投書数通の中からつくった『実話』といえる話です。……つのだじろう」(p.243) ……実際にあったのか、作ったのか、はっきりしない気もするが、とにかく「実話」と言える話らしい。読者からの直筆の(ように見える)手紙の引用、精神病理学への不信感、催眠術師による心霊否定論などで構成されたエピソードで、これから延々と用いられることになる著者独特のスタイルがいきなり確立している。ストーリーよりもそれらの要素の真実性が重要視されるのも後続作と同様。ただしスタイルとしては完成されているが、後に著者自身が強く否定することになる「コックリさんじゃなくて「守護霊さん」なら絶対安心」などの意見が散見されるのはご愛嬌で、そのあたりを意識して読むのも楽しい。世間の苛烈なリアクションに辟易する著者のオーラがそこここに滲み出る好エピソード。


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Posted byserpent sea

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