江戸川乱歩『仮面の恐怖王』

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 江戸川乱歩『仮面の恐怖王』(『江戸川乱歩推理文庫〈41〉仮面の恐怖王/電人M』講談社 1988 所収)

 東京上野、不忍池のほとりの蝋人形館で、二人の少年が奇怪な出来事に遭遇した。蝋人形の鉄仮面がにわかに動き始めたのだ。少年たちはスタスタ歩いていく鉄仮面を追跡し、自動車で走り去るまでの一部始終を目撃する。ところが再度蝋人形館に戻ってみると、そこには鉄仮面の蝋人形が何事もなかったように展示されているのだった。
 その夜、港区の資産家の屋敷で盗難事件が発生した。家人が目撃した犯人の姿は、西洋の甲冑を装着した蝋人形館の鉄仮面という異様なものだった。その鉄仮面こそ、最近巷を騒がせる怪盗「恐怖王」である。探偵「明智小五郎」は資産家からの依頼を受けて調査に乗り出すが、直後何者かによって拉致されてしまい、目覚めると洋上の汽船の一室に監禁されていた。危うし明智小五郎。

「全部盛り」って感じの少年探偵シリーズの一編。明智小五郎をはじめ少年探偵団の面々が大活躍する。敵役は「恐怖王」「黄金仮面」等々姿や名前を変えてはいるが、何をどう盗むかよりも何に化けてどう子供をびびらせるかを行動原理とするサイコパス怪盗がそう頻繁に出現するわけもなく、開始早々あーこれまたあいつだよなぁと思わせるオーラを撒き散らす男「怪人二十面相」である。
 本作には様々な形で旧作からの引用が盛り込まれている。上記の明智探偵が拉致されて以降の展開は、以前感想を書いた『魔術師』(←前の記事へのリンクです)そのままで、そのジュニア版といった趣だし、『黄金仮面』(←前の記事へのリンクです)は二十面相の仮の姿の一つとしてだけではなく劇中作としても大々的に登場する。乱歩作品の読者へのサービスって感じ。
 終盤は著者お得意の洞窟を舞台にした小林少年とポケット小僧の大冒険だ。色々な意味で本作の白眉である(他にも映画館のスクリーンの前に黄金仮面が現れるシーンもよかった)。年少者向けの作品ではあるが、閉ざされた洞窟内でのチェイス&脱出劇は『ランボー』(1982)の廃坑のシーンみたいでスリル満点。小林少年のハイレベルなポジティブシンキングはまじで見習いたい。そして洞窟の中で二人をさんざん追いかけまわしていたでっかい獣の正体は? ?

 ……という感じで盛り沢山な作品だった。唯一残念というか、著者らしいなと感じたのは、汽船に乗ってた「美しい少女」がそれっきり出てこなかったところ。二十面相の配下らしい彼女は、『魔術師』なら「文代」の役回りで明智探偵に即堕ちだったのに、結局あの子は誰だったんだろ。「二十面相の娘」?
 二十面相の無茶な仮の姿の数々を端正に描き出した挿絵は中村猛男によるもの。



『江戸川乱歩推理文庫〈41〉仮面の恐怖王/電人M』
 講談社 1988
 著者:江戸川乱歩
 解題:中島河太郎
 巻末エッセイ・乱歩と私:大谷羊太郎(作家)「乱歩が人生を変えた」

 収録作品
 『仮面の恐怖王
 『電人M

 ISBN-13:978-4-0619-5241-6
 ISBN-10:4-0619-5241-2


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