高階良子『地獄でメスがひかる』

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 高階良子『地獄でメスがひかる』(『血まみれ観音 横溝正史=原作 ~高階良子傑作集~』角川書店 1995 角川ホラー文庫 H601-6 所収)

 リアルなさじ加減のブサイクさを理由に両親や腹違いの兄弟から虐げられてきた「ひろみ」は、ある時ついに入水自殺を決行する。が、あえなく失敗。目が覚めるとそこは見知らぬ病院だった。
 ひろみを救ったのはその病院の院長の甥で、天才青年無免許医の「巌俊明」である。学会を追放された彼は病院の地下研究所で日々、死亡フラグビンビンの忌まわしい研究に精を出していた。死体を繋ぎ合わせて新たな生命を創造する……そんな彼の研究は今まさに完成しつつあった。必要なのは生きた人の脳髄だけ。俊明は当然のように入院中のひろみに白羽の矢を立てる。そもそも脳髄目当てにひろみを救出したのである。
 ……次に目覚めたとき、ひろみはひろみでなくなっていた。窓に映ったその姿は妖精のように美しい。俊明の研究は成就したのだ。俊明に報いるべく社会復帰を誓うひろみだったが、ある時新しい自分の肉体が死体のツギハギだということを知ってしまう。

 生命の創造をモチーフにした医療サスペンス&ロマンス。面白かった!

 この作品は1972年、雑誌『なかよし』に短期連載されている。少女マンガ雑誌ってことで、脳みそがどろっと出たり人体がバラバラになるような、極端なグロ描写はない。なので脳みそが移植されたというより、美人の肉体にブサイクな女の心が乗り移ったような感じで、ストーリーも主人公の情動を中心に展開する。ちなみに脳みその入れ換えと言えば、楳図かずおの超傑作サスペンス『洗礼』の連載が雑誌『週刊少女コミック』で始まったのが1974年なので、本作はそれに2年ほど先行している。

 本作の魅力は主人公ひろみの繊細な心理描写である。家族から受けたトラウマを克服できないまま、現在の自分に向けられる称賛とのギャップに煩悶し、やがて破滅へと向かっていく。そんな心理状態が克明に表現されている。最終局面で彼女を荒れた海へと誘ったフラッシュバックの数ページはとくに素晴らしい。「きみはなんてきれいなんだ」「きみのような美しい人にあえてぼくはしあわせだな」「おまえなんかいなくなればいいんだよ」「生まれてこなければよかったんだよ」……このギャップ。
 また巻末の「解説」でも詳しく触れられていたが、もう一人の主人公巌俊明のキャラクター造形も魅力的だ。所謂オレ様キャラなんだけど、罪悪感をごまかすためにマリファナを常用するという脆さも秘めている。ひろみの心理描写ほど派手ではないが、彼の心の移り変わりもまたしっかりと描かれていて、壊れていくひろみの心とすれ違うように、人間らしさを取り戻していく彼の心……って感じの皮肉なドラマを盛り上げている。

 散々状況を悪化させた看護師がラストページで「ほんとに……まるでゆめを見ていたみたい」なんて言ってるのがマジで納得いかないけど、そんなことも含めて非常に読み応えのある作品だった。



『血まみれ観音 横溝正史=原作 ~高階良子傑作集~』高階良子
 角川書店 1995 角川ホラー文庫 H601-6
 解説:富樫ゆいか

 収録作品
 『血まみれ観音
 『地獄でメスがひかる
 『闇におどるきつね


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Posted byserpent sea

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