松村進吉『「超」怖い話 乙(きのと)』

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 松村進吉『「超」怖い話 乙(きのと)』竹書房 2015 竹書房文庫

 この夏に出た「十干」(←甲・乙・丙・丁〜の十干)シリーズの最新刊。印象としては不思議系のメルヘンっぽい話が多く、幽霊がドンと出てくるような話は少ない。「超」が付くほどには怖くはないけど、どのエピソードもよく整っているし、ノスタルジックで味わい深い一冊となっている。全31話収録。なかでも印象に残ったのは↓

「きょうだい」姉が結婚した一人の男のために崩壊していく家族。体験者の家族はその男とともに、忌まわしい何かを迎え入れてしまったらしい。事態の収拾のため、親戚とともに奔走する体験者だったが……。
 結婚してみたら相手がギャンブル漬けだったとか、経歴ルーツ家族構成が全く不明でマトモに働いてないらしいとか、怪異こそ生じないものの実際に似た感じの話を聞いたことがある。離婚すればいいじゃんって思うけど、なぜかその方向には全く動こうとしない。度を越したリスクに見合うほどの魅力が相手にあるのかというと、そうでもないらしい。まあ色恋沙汰なんてそんなものかもしれないけれど、傍目からは何かしらの未知の力が働いてるようにしか思えない。このエピソードは収録されたなかでもわりと長めで、ダメになった家族の絶望的な状況がしっかりと描かれている。結婚相手の車の描写が秀逸。

「磯」昼の遅い時間、叔父と一緒に釣に出かけた磯で、幼い体験者が怪異に遭遇する。波打ち際で、一見女の水死体に見えたそれは……。近所に出かけて行ってたまたま妙なものを見る、ただそれだけのシンプルなエピソードだが、キレのある鮮やかな描写が印象的だった。人里に接してはいても、山や海の怪異にはこのエピソードに登場したもののような、独特の神性(&艶めかしさ)を感じさせるものが多い。超好みの海の怪異譚。

「イヌ」小さい頃、体験者だけに見えたというイヌ。体験者が一人の時間を狙って突然現れるそれに、彼は散々悩まされていたという。これ、何とか恐怖症とか、イマジナリーフレンドってやつじゃないの?? って思わせておいて、最後に意外なオチが用意されている。一体何が起こってたのかはさっぱり分からないが、なぜかスッキリ。

「おとなのふり」女子「恐怖心を紛らわせるにはどうすればいい?」男子「大人のふりをしてエッチなことすればいいんじゃね??」という、体験者のちょいエロマンガのような素晴らしい着想から始まるエピソード。アホな小学生によるアホな作戦、生じる怪異も地味で軽微だが、居酒屋の二階の一室の雰囲気は抜群で、登場人物も生き生きとしている。また軽微とは言え、実際に劇中のような環境に怪異が生じたら、さぞかし暮らしにくいだろうと思う。短編小説風の著者らしいエピソードだった。

 この他、曰く付き物件についての「訳あり」3編、蔵が出てくるクラシックな幽霊譚「着物」、UFO系の話?「スポット」などバラエティに富んだ話が収録されている。
「「超」怖い話」は夏の「十干」と冬の「十二支」の定期的に出るシリーズの他、ランダムに「「超」怖い話」と銘打った本が刊行されている。プラモは積んでも本は積まないので、一通り買って読んではいるのだが、なかなか感想が追いつかない。この本はめっちゃ怖いのが読みたいって人よりも、ちょっと不思議な話が好きという人にオススメ。


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Posted byserpent sea

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