つのだじろう『うしろの百太郎〈1〉』

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 つのだじろう『うしろの百太郎〈1〉』講談社 1983 KCスペシャル

 1970年代に発生したワルプルギスの夜もかくやと言わんばかりの空前のオカルトブーム。その発生には大小様々な要因が考えられるが、1973年に雑誌『週刊少年マガジン』に発表されたこの作品が起爆点の一つであったことに疑いはない。水木しげるの諸作が鳥山石燕由来の妖怪のイメージを一般化したように、「守護霊」「浄霊」「コックリさん」などの怪しげなオカルト用語とその概念を、間接的にではあるがうちの母親(←オカルト音痴)レベルの人々に普及せしめたという一点においても、その影響の甚大さを窺い知ることができる。

 さてそんな歴史的作品の主要な登場人物はごく少ない。主人公は中学生の「後(うしろ)一太郎」、「後心霊科学研究所」の所長で自身エクトプラズムを吐けるほどの強力な霊媒である一太郎の父親「後健太郎」、顔がめっちゃ怖い霊能犬「ゼロ」、そしてこの巻ではちらっとしか登場しない一太郎の守護霊「うしろの百太郎」という面々。

「第一章 守護霊百太郎」
 シリーズ全編の梗概って感じの第一章は、心霊写真と恐山の実話怪談をネタに厳かにはじまる。冒頭から心霊現象の実在を滔々と説くカメラ目線の後所長でコマが埋まっていく。心霊写真や証言者の顔写真が随所に貼り付けられ信憑性を補完する。著者お得意の手法であり、強引に「事実」を畳み掛けてくる矢追純一のUFOドキュメンタリーと同様のノリだ。この第一章には明確なストーリーはなく、一応後半に依頼を受けて調査に赴く→エクトプラズムが傷ついて所長入院という展開があるものの、「後心霊科学研究所」の活動実態やESPカードの紹介をメインに構成されている。怪しい団体のパンフレットやスピリチュアル関連の入門書って雰囲気。またコマごとに「超能力」になったり「霊感力」になったりする用語の混乱が目につくが、この一見雑に見える遊びの大きさが、オカルトだったらなんでもありという本作の懐の深さを端的に示している……ような気がする。

「第二章 霊能犬・ゼロ」
 一太郎は子犬を飼うことになった。もちろん普通の子犬ではない。人語を解し、一太郎とテレパシーで会話し、テレポート能力まであるらしい。しかも時折、人間のような表情を見せる。入院中の父の助言に従って、子犬の霊感力をテストする一太郎。そんなことをしているうちに、一太郎自身の霊感力の向上を窺わせるような出来事が連続して発生する。
 この章では霊能犬ゼロの登場と一太郎の霊的な成長が並行して描かれている。前章に比べるとずっとマンガらしいエピソードになっているが、ESPカードのプッシュと病床の父親によって圧縮して語られる霊魂云々の話は健在。ゼロを正体不明の、敵か味方かも分からないキャラのままにしてるところがいい。クラスメートの五十嵐さん宅の幽霊、五十嵐さんの祖母の昇天など、印象的なシーンも多い。

「第三章 アパート怪異事件」
 所長不在の「後心霊科学研究所」に緊急の調査依頼が舞い込んだ。両親やゼロに制止されつつも、やる気満々で調査に赴く一太郎だったが、調査対象のアパートの一室に待ち受けていたのは悪霊と化した自殺者の霊だった。案の定、憑依されとんでもない目にあう一太郎。絶体絶命のその時、ついに守護霊百太郎が顕現する。
 いよいよ本領発揮って感じの好エピソード。複数の「虫の知らせ」を無視して現地に到着した途端、一太郎の目の前に自殺者が「ズザッ」と降ってくる衝撃的な幕開けから、憑依される一太郎、百太郎の登場と、息つく暇のない展開を見せる。作画にも非常に気合いが入っていて、曰く付き物件の嫌な雰囲気が見事に表現されている。今回一連の怪異事件を収拾させるのは、途中から登場する「奥山靖子」というキャラの立った霊感少女なのだが、これ以降全然出てこないのが惜しい。

「第四章 コックリ殺人編」
 霊魂の実在について学校の先生と対立する一太郎。そこでクラスで実証実験としてコックリさんを行うことになったのだが……実験の最中にさんざんコックリさんをdisっていた先生が、突如正気を失い暴れはじめた。
 このエピソードで特筆すべきはコックリさんの歴史と方法が図を用いて詳細に解説されている点だ。これをきっかけに全国の学校でコックリさんブームが発生したと言われている。オカルトが教室にやってきた瞬間である。また著者が得意とするモチーフだけに、奇声を発して女教師のフトモモにむしゃぶりつくなど、狂った先生の描写が素晴らしい。このエピソードは先生が逮捕されたところまでの収録となっているが、ここまではまだ前半で続きは次巻に収録されている。劇中「このごろ各地の学校のクラス会で”霊があるかないか”の論争がおこなわれ、霊を信じない先生がこんなことをいったが答えてくれというファンレターがおおいので、マンガの中でその一部にお答えします」(p.313)という著者の言葉がある。

 比較的コマがでっかいにも関わらず、毎回読むのに時間がかかる一冊。読み応え満点。


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Posted byserpent sea

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