手塚治虫『サンダーマスク』

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 手塚治虫『手塚治虫漫画全集 MT270 サンダーマスク』講談社 1983

 主人公「手塚治虫」は夜の名神高速道路上で、キングコングみたいな巨大モンスターと遭遇する。名古屋のSF大会からの帰路である。知人の伝手を頼って岐阜山中の屋敷に逃げ込んだ手塚だったが、そこには一人の少年が彼を待ち受けていた。少年の名は「命光一」。深夜、手塚が屋外を眺めると、そこには今まさに屋敷を襲撃しようとする巨大なモンスターの姿があった。手塚を追ってきたのだ。あわやというその時、どこからかもう一体の鳥人間っぽいモンスターが現れ、キングコング的なモンスターとの戦闘を開始した。
 この鳥人間っぽいモンスターこそ命光一に取り憑いた炭素型宇宙生物の「サンダー」、そしてキングコング的なモンスターの正体は硅素型生物「デカンダー」に憑かれた一匹のサルであった。ともに肉体を持たないガス状の生物であるサンダーとデカンダーは、他の生物に憑依することで肉体を得、それをモンスターへと変身させるのだ。1万年に及ぶ宇宙規模の戦いに、漫画家手塚治虫は巻き込まれていく。

 本作に対する著者の思い入れのほどは、たった4行という異例に短い「あとがき」からも窺えるが、この作品には著者が「気に入らない」「乗れなかった」「駄作」「失敗作」と評した自身の作品の多くに共通する重さや拘泥は感じられない。キャラクター(とくに手塚治虫)は生き生きとしているし、古い作品にありがちなまだるっこさがない。全5話、200ページ強の作品だが、すごいスピード感のサンダー vs デカンダーの初戦をはじめ見所は多い。ラスボスのデザインもビアズリー(もしくは現行プリキュアのディスピア)みたいな感じで非常にかっこいい。命光一のキャラは薄いけど、主人公手塚治虫のハイテンションがそれを補って余りある。

 TVの特撮ドラマのコミカライズという位置付けのこの作品で、著者は従来の巨大変身ヒーローものの枠組みの中に、積極的にSF的なテイストを盛り込もうとしている。炭素型生物のサンダーと硅素型生物のデカンダーという設定や、変身のプロセス、モノリスのようなバイブルの存在などなど。読んでて「おっ!」ってなるのが、ことごとくそんなところなので、その試みは成功してるように思う。著者としてはTVの後追いであることに引っかかりを感じていたようだが、むしろ先行して器が用意されていたからこその試行だったのではないだろうか。
 実はTVの『サンダーマスク』はほとんど見たことがないのだが、聞くところによるとドラマと本作は全くの別モノって感じらしい。マンネリやワンパターンを嫌う著者にしてみれば、最初から怪獣出現→迎撃を繰り返す作品を描く気はなかったのかもしれない。昭和の巨大変身ヒーロー漫画として一読に価する作品だと思う。


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Posted byserpent sea

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