加藤一『恐怖箱 十三』

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 加藤一編著, 鳥飼誠, 怪聞亭, つきしろ眠, つくね乱蔵, 矢内倫吾, 高田公太, 原田空, 渡辺正和, 久田樹生, 深澤夜, 松村新吉, 雨宮淳司共著『恐怖箱 十三』竹書房 2004 竹書房文庫

 13人の著者による「恐怖箱レーベル」13番目の実話怪談集。テーマは一応「呪いと祟り」。必ずしもそれに沿った作品ばかりではないけれど、比較的長めの話から短いものまで、全28話が収録されている。とくに印象的だったのは以下の5編。

「流れ」3ページほどの短編。用水路を流れる女と少年の邂逅。女の首には絞殺か縊死を思わせる痕跡が見られるが、なんとなく人外の雰囲気が漂っている。怖いかどうかっていうと、作中の少年同様、正直あまり怖くはない。しかしこのエピソードのようなイメージの鮮明な話は、作品集全体を引き締めると思う。

「山麓の家」田舎暮らしをはじめた家族の生活が、得体の知れないなにものかによって蝕まれていく。徐々に悪化する状況が、コンパクトにまとめられていて読み応えがあった。家族に障っていたのは、映画にでも出てきそうな怪物で、お祓いや祈祷の類いではどう見ても話にならなそうだ。こんなのに行き当たったら逃げるしかない。怖いというよりなんか凄い。生理的に一番キツかったのは、娘が座布団で子犬を押さえつけてるシーンだった。

「成就した恋」恋のおまじないのつもりで、うっかり相手を呪ってしまう話。おまじないの手法は墓場の土を使うなど、少しばかり不気味だけれど案外お手軽で、ちょっと思い詰めた小中学生なら深く考えずにやってしまいそうなレベルのもの。しかしその威力は絶大だった。対象とした女の子の家庭に、うっかりでは済まされないレベルの不幸が次々と訪れる。体験者はそれをきっかけに話すことができた、なんて無邪気に喜んでいたが、強力な呪いはやがて女の子本人にも及ぶ。なんの屈託もなかった分、自分の愚かさに気付いたときの体験者の絶望は深い。これ、恋は成就してないよね……。

「顛末」カップルが同棲をはじめた一軒家にまつわる後味の悪い話。この作品もまた長期間にわたって、怪奇現象がエスカレートしていく過程が描かれている。異様な状況に目を瞑って、騙し騙し日々を過ごすという心情が真に迫っていて痛々しい。直視すれば、ささやかな幸せが吹き飛んでしまいそうな、そんな気持ちが伝わってくる。
 不気味な現象が次々に起こって、気味の悪い幽霊が出たりもするけど、一番気持ち悪いのは、これらすべての現象が誰かの「呪い」である可能性が示唆されていることだった。家のあちこちから発見される呪符。体験者が一人で荷物を運び入れたらしいから、呪符が仕込まれたのはそれ以降のはずだ。一体誰の仕業だったのだろうか。彼女がなにかを知っているような気がしないでもない。彼女の父親の口をついて出た「いや、ウチの親戚とか」という要領を得ない答えの意味は? 実に後味の悪い話である。

「神とは呼ばず」タイトルが秀逸。たまたま同時期に憑きものについての本を読んでいたこともあって、とても興味深かった。この話の舞台もやはり四国か山陰のあたりだろうか。憑きもの筋、厭われる側のリアクションが全くなく、ただ結果として同じ症状の者が出る。ときに死にいたるような苛烈な症状だ。祟る祟られるの構図が、集落のなかで演劇のように様式化しているのが不気味。あいつはそういう役回りって感じなんだろうか。「いつもシャンとしたブラウスを着て」(p.181)いるという、その家の娘のキャラクター描写が鮮明で、短いながら印象に残った。

 他には『黒髑髏』なども良かったけど、スケッチ集見てたらいきなりタブローが出たみたいな座りの悪さを感じた。書き込んだ作風のものがあと何本かあればバランスがとれたのかも知れないが、最後に一本ポンと載っているだけだから、どうしても浮いてしまっている。とはいえ、全体に見て読み応えのあるものが、特に長めの作品に多く、水準以上の作品集になっていると思う。


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Posted byserpent sea

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