江戸川乱歩『D坂の殺人事件』

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 江戸川乱歩『D坂の殺人事件』(『江戸川乱歩推理文庫〈1〉二銭銅貨』講談社 1987 所収)

 コバヤシ少年がやたら可愛いTVアニメ『乱歩奇譚』がはじまった。最初のエピソードは『人間椅子』。江戸川乱歩を蜈蚣Melibeがサンプリングしたみたいなエピソードで、原作はエッセンスだけって感じだった。
 この『乱歩奇譚』には「江戸川乱歩 没後50年作品」と銘打たれているが、実は今年は天知茂の没後30年にもあたっている。そんなわけでCSでは天知茂の明智探偵が活躍するTVドラマ「江戸川乱歩の美女シリーズ」がまたまたスタートした。『D坂の殺人事件』は「美女シリーズ」ではドラマ化されてないのだが、民谷伊右衛門のようなダメダメな暮しぶりの、若き日の明智探偵はちょっと見てみたかったと思う。ドラマと小説では明智探偵のライフスタイルや時代背景がおもっきり違うけど、ネタ(タネ)的にはドラマの世界観とすごく相性が良さそうだし。
 そんな『D坂の殺人事件』は1998年に映画化されている(2015年版は未見)。監督は実相寺昭雄、脚本はエヴァの薩川昭夫で、R-15指定。少し前にCSでやってたのを見たので原作も再読してみた。

 舞台は東京のD坂にある古本屋。主人公の「私」と知人の明智君は、そこで絞殺された古本屋の女房の死体を発見する。犯人の行方は不明。現場周辺に居合わせた近隣住人の証言によって、古本屋がほぼ密室の状態だったことが判明する。偶然犯人らしき男の姿を目撃したという二人の学生の証言は曖昧で、警察の捜査は難航する。もともと探偵趣味のあった「私」は独自に調査を進め、やがて一つの疑念を抱きはじめた。……あのとき一緒にいた明智君こそが犯人なのでは?

 明智小五郎がはじめて登場するこの作品は、雑誌『新青年』に掲載された著者の6作目の探偵小説である。最初当てずっぽうで「これ犯人「私」なんじゃね?」なんて思いながら読んだ覚えがあるが、「本格もの」だけに、しっかり読めば理詰めである程度犯人が特定できるように書かれている。そのうえごく短い作品にも関わらず、探偵小説らしいネタや著者の作風を特徴付ける要素が、ざっくりどっさり盛り込まれている。メインの密室、推理比べ、連想診断、指紋、錯覚、嗜虐趣味、古本屋などなど、ちょっと盛り過ぎて溢れそうになってるかのような印象だ。そのせいかどうかは分からないが、毎回読み返すたびに、この作品には文系の人から数学の解説を聞いてるようなもどかしさを感じる。

 この作品でとくに印象的なのは、結構じみーに登場する明智小五郎のキャラクターだ。本作の明智は後の「少年探偵団シリーズに出てくるようなスタイリッシュなイメージではなくて、どっちかというと金田一耕助っぽいのだけれど、うずたかく本を積み上げた四畳半の天才探偵というキャラは鮮烈で、今でも充分に通用するモダンさ。というか天才系キャラの類型のルーツの一つが、この明智小五郎なのかもしれない。1998年の映画では四畳半の明智の雰囲気が実によく再現されていた。天知茂をイメージしてると違和感ハンパないが、原作の描写を踏まえると嶋田久作の風貌はわりとハマっているように思う。ちなみに著者はこの「D坂」のモデルになった文京区の団子坂で、本当に古本屋を営んでいたらしい。「団子坂」を「D坂」にするあたりにセンスが感じられる。『団子坂の殺人事件』じゃかっこよくないもんなー。


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Posted byserpent sea

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