M・R・ジェイムズ『消えた心臓』

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 M・R・ジェイムズ(Montague Rhodes James)著, 紀田順一郎訳『消えた心臓』("Lost Hearts"『M・R・ジェイムズ傑作集』東京創元社 1978 創元推理文庫 所収)

 原題の「Lost Hearts」が無性にかっこいい、ゴースト・ストーリー。

 ごく短い作品だけに登場人物は少ない。主人公のスティーブンと、召使いの男女、異端信仰の研究者のアブニー氏、それから二人の犠牲者。
 両親を亡くしたスティーブン少年が、アブニー氏の邸宅に引き取られるところから物語ははじまる。肩書きの怪しすぎるこのアブニー氏は、スティーブンの相当年上の従兄にあたるらしい。予想外に暖かく迎え入れられた少年だったが、あるとき自分が引き取られるずっと以前に、身寄りのない男の子と女の子がこの邸宅で暮らし、いずれも行方不明になっていることを知る。少しずつ奇妙な出来事が起こりはじめる……。

 主人公のスティーブン目線で進む物語の裏側で、アブニー氏の狂った計画が着々と進行していく。著者の語り口は終始静かで、整っていて、大げさに煽ることがなく、秘密めいた作品の雰囲気にとてもよく似合っている。アブニー氏の計画の全貌が判明するのは残された書類からという構成で、引き裂かれたパジャマや酒蔵の声などの不気味な出来事が、クライマックスに向けての緻密な伏線となっていたことがそこで明らかにされる。浴槽の少女や月光を浴びる二人のゴーストの、凄惨な美しさが強く印象に残った。短いけれど満足度の高い作品だと思う。

 この作品が収録されている『M・R・ジェイムズ傑作集』には『十三号室』("Number 13")、『銅版画』("The mezzotint")、『秦皮の木』("The Ash-Tree")などを含めた全17編が収録されている。古文書の専門家らしい歴史的な蘊蓄や、書画骨董にまつわる豆知識を織り交ぜた物語が多い。どれも百年ほど前に発表された小説で、作品中の年代設定は多くの場合それよりもさらに遡る。発表当時から「古典的な作風の作家」と評されていたらしいが、それじゃ今読んだらよっぽど古臭いのかというと、全然そんなことはなくて、むしろかっこいい場面や奇抜な発想に驚かされる。オカルト好きな人にはおすすめの本だ。

 ※本作『消えた心臓』を含めた著者の怪奇小説は、2001年に同文庫から出た紀田順一郎訳『M・R・ジェイムズ怪談全集 全2巻』↓にすべて収録されている。


 M・R・ジェイムズ怪談全集〈1〉』東京創元社 2001 創元推理文庫

 M・R・ジェイムズ怪談全集〈2〉』東京創元社 2001 創元推理文庫


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Posted byserpent sea

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