『今昔物語集 巻第二十四 本朝 付世俗』より「第九」そこのヘビ、なにやってんの! って話 その2

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『今昔物語集 巻第二十四 本朝 付世俗 嫁蛇女醫師治語 第九』(山田孝雄, 山田忠雄, 山田秀雄, 山田俊雄校注『日本古典文学大系〈25〉今昔物語集 四』岩波書店 1963 所収)

 ちょっと前の記事で書き漏らしたエピソードを補完。この話、内容自体はとても面白いものなんだけど、知識や読解力の乏しさから、解釈する上で色々迷ったり、疑問に思うことが多かった。そのあたりのことも下の方にごちゃごちゃ書いてます。

 さてこの話に登場するヘビは、前の2編に出てきたヘビ以上に、わけの分からない行動をとる。事故なのか、狙ってやってたのか……。

『蛇に嫁ぎし女を医師治せる語 第九』

 今は昔、河内の国、讚良の郡(※1)の、馬甘の郷に住む者がいた。生まれこそは良くなかったが、大変な金持ちで豊かに暮していた。そこには若い娘が一人あった。

 四月のころである。その娘はカイコの餌にするために、大きな桑の木に登って桑の葉を摘んでいた。その桑の木は道のすぐそばにあった。大路を行く人が通りすがりにふと見ると、大きな蛇が出てきて、娘の登った木の根元に巻き付いている。通行人が蛇のいることを告げると、それを聞いた娘は驚いて下を見る。確かに大きな蛇が木の根元に巻き付いている。

 怯えた娘が慌てふためいて木から飛び降りると、そこに蛇が巻き付いてあっという間にまぐわってしまった。(※2)すると娘の全身はたちまち熱くなり、死んだように木の根元に倒れ込んだ。それを見た両親は嘆き悲しみ、急いで医師を求めた。その国にはとても優れた医師がいたから、その人を呼んで娘を診てもらうことにした。その間、蛇と娘は繫がったままである。医師は「まず娘と蛇を同じ戸板の上に乗せて、速やかに家に連れ帰り庭に置くのだ」と言う。そこで戸板に乗せて娘を運び込むと家の庭に置いた。

 そのあと医師の指示に従って、稲の藁三束を焼く。この際三尺(※3)を一束にまとめて、それを三束用いる。その灰を湯に混ぜたものを三斗(※4)、さらにそれを煮詰めて二斗にする。それから猪の毛を十把、刻んで粉にしたものを先の汁に混ぜ、頭に足が当たるほど折り曲げた姿勢で娘を杭に釣り下げると、その汁を娘の性器に注ぎ込んだ。一斗ほど入れると蛇が離れ、這って逃げようしたので打ち殺して捨てた。そのとき蛇の子が凝固して、蛙の子のようになったところに、猪の毛が突き立ったもの(※5)が、性器から五升(※6)ほど流れ出した。蛇の子が皆出てしまうと、娘は目を覚まし驚いた様子で話しはじめた。両親が泣く泣くこの出来事について問うと、娘が言うには「それが全然覚えてないのです。まるで夢でも見てたみたい」

 娘は薬の効力によって生き長らえ、それに感謝して慎ましく暮していたが、それから三年後、再び蛇と交わり、ついには亡くなってしまった。今回は「これはもう前世からの因縁だろう」と、治療することもなかった。
 それにしても医師の能力・薬の効力とは不思議なものだと語り伝えられている。


 ※1. 大阪府四條畷市・大東市付近。
 ※2. 原文では「嫁」の一言。
 ※3. 約90センチ。
 ※4. 約34リットル。『伊呂波字類抄』の数値より。
 ※5. 後述します。
 ※6. 約5.5リットル。『伊呂波字類抄』の数値より。

 以上がだいたい一般的な解釈に基づく意訳なのだが、すごく気になるところがある。それはこのヘビがオスメスどっちだったのかってことだ。
 実はこの一連の出来事をリアルっぽく想像してみると、ヘビがメスだったと考えた方がしっくりとくる。わが国には卵ではなくて子供を産む、卵胎生のマムシが広く分布しているから、娘に「嫁いだ」ヘビがマムシのメスだったとすれば、※5の体内から子ヘビが溢れ出してくる描写にも納得がいく。この場合ヘビは子供の出てくる総排泄腔のあたりまで、すっぽり娘の体内に入り込んで、そこで子ヘビを出産したのだろう。

 とは言うものの、男女の交接を意味する「嫁」とあるからには、このヘビはやっぱりオスでないとまずい。というわけで長らく※5の一文は「そのとき蛇の精液が凝固して、蛙の卵のようにドロドロになったところに、猪の毛が突き立ったもの」という風に勝手に解釈していた。液体が凝固する「凝りて」という言葉がポイントで、精液が凝固してカエルの卵を包んでいるゲル状の物質っぽくなるというのは想像しやすい。このエピソードの典拠となった『日本霊異記』の頭注にも「がまがえるの卵」(※7)とあるし、「五升」という単位が用いられていることからも、これが落としどころじゃないかと思うのだが……。

 一般には「子」という言葉を遵守して、ヘビの子が出てくると解釈されることが多いようだ。この岩波書店の「日本古典文学大系」では特に注釈もされてないが、カエルの子=オタマジャクシって感じなのかな。だとすると娘は体内で放出されたヘビの精液によって、この短い時間で無数の子ヘビを孕んだことになる。突飛だけれど説話としてはおもしろい。なにせヘビの精液はメスの体内で数年間生き続けるほど強力らしいし。
 とまあ、そんな感じで色々考えた末に、今回は上記のようななんとも曖昧な意訳文になった。ただ「猪の毛が突き立ったもの」というところフォーカスすると、せっかく刻んだイノシシの毛をストーリー中で生かすなら、ゲル状物質にちくちく刺さっているよりも、子ヘビ一匹ずつに突き刺さっている方が絵としておもしろいとは思う。

 ところでこのエピソードには、何カ所かどうしても意味の通らない文がある。頭注に「文意不通」とか「誤訳したものか」と書かれているところだ。とくに娘の術中体位はさっぱりなので、ここは『日本霊異記』を参考にした。頭と足がくっつくほど体を折り曲げ、体内に薬液を一斗も流し込んだとあるから、性器を上に向けて固縛して釣り下げたのだろう。めっちゃ恥ずかしいポーズだ。記憶がなくてほんとよかった。それをずっと見てた両親も、さぞかしいたたまれなかったことだろう。
 ヘビには半陰茎(ヘミペニス)という生殖器が左右に一つずつ付いている。たまにヘビの足に誤認されているものの正体は、多くの場合、飛び出したこの生殖器である。娘の体内に突っ込んだはずみで飛び出した生殖器が、釣り針の「かえし」のように引っかかったとすれば、全然抜けなかったというのもなんとなく納得。

 ちなみに江戸時代に書かれた『耳嚢』のなかにも、ヘビがうっかり体内に入ってしまったときの取り出し方が書いてあって、それによると「医書にも、「胡椒の粉聊(いささ)か蛇の残りし所へ附くれば、出る事妙也」とありしが、夫(それ)よりも多葉粉(たばこ)のやにを附くれば、端的に出るなり」(※8)とのこと。ヘビにタバコのヤニを塗り付けるだけ。めっちゃお手軽!

 ※7. 『日本靈異記 中巻 女人、大蛇に嫁はれ、藥の力に頼りて、命を全くすること得る縁 第四十一』(遠藤嘉基, 春日和男校注『日本古典文学大系〈70〉日本靈異記』岩波書店 1967 所収 p.293)
 ※8. 根岸鎮衛『耳嚢 巻之十 蛇穴の中へ入るを取出す良法の事』(根岸鎮衛著, 長谷川強校注『耳嚢 下』岩波書店 1991 岩波文庫 所収 p.398)。( )のフリガナは適当につけた。

 ※上記『今昔物語集』の意訳は、主に頭注を参考にしてまとめましたが、解釈などに間違いのある可能性が大いにあります。超意訳です。またごちゃごちゃと書いてある文章には、定説ではない独断や思い込みが多く含まれていて、引用文以外に資料的な価値はありません。あくまでも感想文ということでご了承ください。


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Posted byserpent sea

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Re: ブログ移転のお知らせ

>>かぶらがわさん
了解しました。わざわざありがとうございました。

2015/05/22 (Fri) 20:33 | EDIT | REPLY |   
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2015/05/22 (Fri) 09:31 | EDIT | REPLY |   

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