川島のりかず『みな殺しの家』

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 川島のりかず『みな殺しの家 恐怖の都市へ』ひばり書房 1987 ヒット・コミックス 怪談シリーズ 217

 いかがわしさ満点。悪意の塊のような侵略SF。おもしろかった!

 ある朝ポニーテールの小学生、紫音(しおん)が目覚めると、家の真上に巨大な球体が浮かんでいた。普通の戸建て住宅くらいのサイズのでっかい黒い玉だ。原因不明の怪現象に、マスコミや近所の住民が昼夜の区別なく詰めかけ、球体に触れようとした警察官はその場で感電死してしまう。騒ぎに辟易とした紫音と家族は脱出を試みるが、球体はどこまでもついてくる。仕方なく紫音たちは自宅に戻ることに。同じころ町内では子供や赤ん坊が行方不明になる事件が頻発していた。黒衣の怪人が跋扈し、子供たちを襲う。紫音も危うく連れ去られそうになったが、友達のミドリちゃんを犠牲にからくも逃げ延びる。結局その事件は解決されないまま、次第に忘れ去られていく。
 とかなんとかやってるうちに、謎の球体には変化が生じていた。オレンジジュースのようなしずくを垂らしはじめたのだ。その液体には飲んだ者の願望、例えば病気平癒、精力増進、学業成就、昇進、美顔、発毛などなど、あらゆる願いを叶える効力が備わっていた。液体を瓶詰めにしてあこぎな商売をはじめる紫音の家族。一瓶百万円という高額にも関わらず、購入希望者はあとを絶たない。毎夜札束を数えながら、紫音の家族は次第に狂気に陥っていく。
 球体には再び変化が生じていた。膨張をはじめたのだ。球体は日々膨らみ続け、とうとう大爆発を起こした。爆風が吹き荒れ、その内部からはUFOが出現。同時に紫音の家族が販売したすべての魔法の水の効力が失われてしまう。

 ここまでがクライマックス直前までの大まかな流れ。色々な要素がてんこ盛りで、こうして粗筋をまとめていても、すごく楽しそうな作品だ。次々に状況が変化するから、全然先が読めない。このあと紫音の家族は暴徒と化した近隣住民から『デビルマン』の牧村一家のような目に合わされ、紫音は一人だけ宇宙人に救われるのだけど、すべての元凶である宇宙人の目的は「地球人の性格を知りたい」というご無体なものだった。また暴徒から紫音を救い出した理由もひどい。宇宙人上司「本当ハペットニシタインダロ」、宇宙人部下「マァソウデスガ」(←頭を掻きながら)って感じ。
 とはいえ作品全体からすると宇宙人分はごく僅かだ。メインで描かれるのは、魔法の水を巡って七つの大罪を体現していく人間の浅ましさと、追いつめられていく主人公の姿。

 著者についてはひばり書房の末期に、「SFミステリー」と銘打って30冊前後の作品を発表したという以外全然分からない。作品の傾向はSF、サイコ、スプラッターとなんでもありな感じ。本作のように主人公が精神的に追いつめられていくタイプの作品が多く、どちらかと言えば「古き良き」が主流のひばり書房の怪奇マンガのなかではかなりモダンな印象。語り口はドライで、緩急が激しい。この作品の印象的なシーンの一つ、紫音の放尿シーンでは1ページ5コマをフルに使って、草原にしゃがみ込んだ少女の背後にじわじわと忍び寄る不穏な影を描き、効果をあげている。
 とまあ色々書いてきたが、著者の作品の最大の美点はその読後感だろう。精神的にキツい描写やスプラッターなシーンも多いのに、なぜか読後感はスッキリ。まったくあとに引かない。不思議な作風だ。


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Posted byserpent sea

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