つのだじろう『霊界通信』

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 つのだじろう『霊界通信』(『恐怖心霊ゾーン 霊界通信 ―デスマスクの旋律』講談社 1984 KCスペシャル 40 所収)

「冗談コロッケだ! おれはぜったい、そんなもの信じないぞ!」(p.12)と言い放ち、霊魂の存在を強く否定する主人公「四神史郎」少年が、学園に次々に起こる心霊がらみの事件に巻き込まれ、知らず知らずのうちにその道にどっぷりと嵌っていく。「狂気の校医の巻」「エンゼルさんの巻」「超能力トレーニングの巻」の全3話で構成される怪作。著者の分身である心霊研究家で小説家の「牧草介」(イケメン)もオブザーバーとして全編に登場する。

「狂気の校医の巻」
 主人公四神の前に変死した同級生「北島」の霊が現われ、自分は病死ではなく殺された、そして次は君の番だと告げて消える。幽霊を目の当たりにしても、頑なに霊魂の存在を信じようとしない四神。そんな彼を殺そうとしているのは、悪霊に憑依された校医の「加賀先生」であった。
 著者はこれまでに悪霊に憑かれて生徒を襲う教師というモチーフを何度も作品化している。印象的なところでは『うしろの百太郎』の「コックリ殺人編」「イヌ神つき伝説」、以前感想を書いた『学園七不思議』にも同じ趣向のエピソードがあった。百太郎の「イヌ神つき伝説」は取り憑かれる教師が女性の校医であることや、主人公を複数回襲う流れなどがこのエピソードと非常によく似ている。校医が主人公だけにしか憑依された姿を見せない点も共通しているが、本エピソードではそれがより徹底していて、憑依された姿を目撃するのは主人公のほかは霊能者と心霊研究者(多分)だけ。ポルターガイストや動物を使役する(「イヌ神つき伝説」)などの超常的な現象も発生しない。四神の目撃分を抜いてしまえば、加賀先生がごく普通?のシリアルキラーに見えるように、慎重に構成されている。
 このケースのように、巷を騒がせる事件事故のなかには「憑依霊」が関わったと考えられるものがいくつもあるらしい。劇中で例示されているのが「逆噴射事故」として知られる1982年2月に発生した「日本航空350便墜落事故」だ。事故の直接の原因は機長の操縦ミスとされているが、この事故も「霊的な見方をすれば……大勢の霊能者が「憑依霊」のしわざだと断言している!」(p.54)という。既読感は強いが、その分、安定感は抜群。よくこなれたエピソードだと思う。

「エンゼルさんの巻」
 僕はなぜモテないのだろう、今まで一通のラブレターも貰ったことがない。顔も運動神経も他人にそう劣るとは思えないのに、このネクラな性格のせいだろうか。……なんて悩む四神のもとに、ついに念願のラブレターが届いた。差出人は同級生の「関みずえ」。眼鏡にそばかすの地味な女の子だ。両親のいない自宅に誘われ「ナハハ~~ッ、キョーレツな誘惑~~っ」などと大はしゃぎする四神。ところがみずきには「エンゼルさん」で召還された危険な「浮遊霊」が憑依していたのだった。
 著者お得意のコックリさん系のエピソード。心霊系の連作には決まって一話以上この手の話が含まれている。内容はコックリさんを都合よく改竄したに過ぎない「エンゼルさん」など、コックリさんに類似した占いの危険性を説くもので、それに主人公の恋愛願望をストレートに絡めているのが目新しい。つのだ作品トラッドの「一人だけ私服」で登校する主人公が、モテない理由をあーでもないこーでもないと思い悩んでる姿がシュール。

「超能力トレーニングの巻」
 隣町の中学には「超能力クラブ」があり、リーダーの「茶倉」には強い能力が備わっているという。そんな彼らに牧草介を介して知り合った四神たち「心霊研究会」の面々は、すったもんだのあげく茶倉に教えを乞い、超能力のトレーニングを開始するのだった。
 これまでの2話とは明らかに毛色の異なるエピソード。ページ数も3倍ほどの長さになっている。劇中でも紹介されているが同時期に刊行された『つのだじろうのだれでもできる霊感・超能力トレーニング』とリンクした作品で、内容は超能力の熱烈な肯定と、超能力のトレーニングを推奨するもの。ストーリーとしては主人公のライバルキャラ茶倉の正体が明らかになる時点(全編の1/3程度)で終了している。あとはずーっとトレーニングのハウツー本。物語を途中で投げ出したかのようにも感じられるこの構成は、これまでいかなる啓蒙的な内容であっても、巧みにストーリーに乗せ、エンターテインメントとして仕上げてきた著者の作品としては少々異例である。上記「だれでもできる霊感・超能力トレーニング」の広告としての側面が大きいのかもしれない。
 このエピソードが発表されたのはおそらく1984年、奇しくもヨーガ教室「オウムの会」が雑誌『ムー』誌上ではじめて紹介されたのと同じころだ。まず関係はないとは思うが、超能力をコアとする小さなサークルが、否定派の人材をも巻き込みつつ徐々に拡大していくさまや、浮世離れした独特の雰囲気が非常に上手く表現されている。

 以上改めてざっと目を通してみたが、各話ごとに全然雰囲気が違っているのが面白い。この『霊界通信』に併録された名作短編『デスマスクの旋律』については後日。


 ※コミックからの引用は、読みやすいように改行、句読点を調整しています。


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Posted byserpent sea

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