夢野久作『幽霊と推進機』

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 夢野久作『幽霊と推進機(スクリュウ)』(『夢野久作全集〈2〉』 中島河太郎, 谷川健一編 三一書房 1969 所収)

 あとでまた変えればいいか……と思って以来、かれこれ3年以上経つこのブログのタイトル。あまりにもアレなのでこれまでに何度か変更を考えたことがある。まあ普通に読書メモなんだけど、もうちょいかっこよくしたい。傾向を反映できればなおいいかな……なんて考えてはみたものの、さっぱり思いつかない。思いつかないけど、世間にはまさにこんな感じ! ってのはあって、それがこの「幽霊と推進機」ってタイトル。全然読書メモな感じじゃないけど、かっこいい!

「狂気」のイメージが強烈な著者の作品には、頭のおかしい人が確かにバンバン出てくるし、奔放で諧謔味の過剰な文体も実に狂ってるっぽい。しかし作品の構成そのものは、多くの場合「狂気」とは程遠い感じで美しく整っている。この『幽霊と推進機』もタイトルだけ見ればミシンと蝙蝠傘みたいなよく分からなさで(けどかっこいい)、まーたナンセンスっぽい作品かなあと思うけど、実際には『怪奇小説傑作集』にでも収録されてそうな古典的な格調を備えた海洋奇譚で、タイトルに偽りなしの幽霊とスクリューにまつわる物語が展開される。

 香港からシンガーポールへの航海の途上、主人公の乗り込んだ貨物船に二人の病人が出た。「チブス」に罹患していたのだ。早急に手を打たなければ手遅れになるだろう。感染の怖れもある。ところが船には船医がいなかった。気の荒い水夫長が半殺しの目に合わせてしまったのだ。船員は皆成すすべもなく、ただ狼狽えるばかりである。そんなとき貨物船が激しい時化に見舞われてしまう。
 数日間続いた嵐が去ったあと、患者を隔離していた「チャンコロ部屋」の異様な状況が明らかになった。二人の患者が激しく乱れた様子で死亡していたのだ。嵐の最中、船体の動揺に振り回されたのか、死体は惨たらしい有様だった。やがて二人の水葬が執り行われたが、水夫長の挙動がどうもおかしい。不審に思った主人公が水夫長の船室の様子を窺ってみると、そこには水夫長の身体がうつ伏せに投げ出されていた。そしてその足元には二つの影が……。

 このあと幽霊が出るのだが、クライマックスはほの赤いランタンの下に再び幽霊が現れて以降の怒濤の展開。荒れた海面に浮上した死体袋に拳銃を乱射したりする。「チャンコロ部屋」の凄惨な状況も忘れ難い。最後の最後ですべては脳が勝手描いた夢なのではないか、という疑問が提示され、証拠ないでしょ? って感じで終わる。
 著者の作品のなかでは少しマイナーめの作品ではあるが、様々な人種が乗り込んだ狭い船内の猥雑さ、そのなかでアクセルをおもっきり踏み込むようにおかしくなっていく登場人物の様子が、短いページ数で見事に表現されている。タイトルもかっこいい。


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Posted byserpent sea

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